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そんなある日。光が差した。
塾帰りに町田魅音が、「ゆらりのSNSを教えようか?」と言ってきたのだ。
「ゆらりがなにを考えているのか、知りたくない?」
「知りたいよ。でも、無断で見るのはよくない」
「これが日記帳だったら、勝手に見るのはよくないよ。でも、SNSだよ? 不特定多数に見られるのを前提として成り立っているSNSだよ。見られたくない人は閲覧制限をかければいいのに、ゆらりはそうしていない。これって、見てもいいってことだから。難しく考えなくていいよ」
「…………」
誘惑に勝てずに、ゆらりちゃんの【つぶラン】を覗き見た。それも、町田魅音からアカウントを教えてもらったその十五秒後に。
そして、僕は知った。
ゆらりちゃんは、父親と妹と弟の四人暮らし。去年、おばあちゃんが亡くなった。生活費を切り詰めて、貯金している。近くのコンビニでバイトをしている。などなど……。
高校の入学式があった日のつぶやきを読んで、僕は舞いあがった。
【ゆり@yurarinko・4月8日
幼馴染の男の子がいた! びっくり!! 神様が謝るチャンスをくれたのかも。絶交したことを後悔している。仲直りしたい。でも、いまさらどう謝ったらいいのかわからない】
ゆらりちゃんも仲直りしたいと思っていた!!
僕は勇気をだして、早速、近所のコンビニを回った。ゆらりちゃんが働いているコンビニを見つけ、手紙を渡した。
『今度の土曜日、護摩神社で会いたいです。大切な話があります』
謝りたい。仲良くしたい。ゆらりちゃんの隣に、戻りたい。
ゆらりちゃんは僕のことをどう思っているのだろう?
気になって、【つぶラン】を見てみると……。
【ゆり@yurarinko・1分前
無理だって諦めていた。こんな自分、彼には似合わないって。でも限界。好きだと気づいてしまった。可愛くなりたい】
「あー……」
絶望のため息がこぼれる。床に寝転がって、片腕で目元を覆う。
「好きな人、いるんだ……。僕……じゃないよな……。ゆらりちゃんが似合わないって思うぐらいだから、よほどのいい男なんだろうな」
相手を探るために、コメントを入れる。
【ん@supenosaurusu・30分前
ゆりさんの好きな人ってどういう人ですか? 差し支えのない範囲で教えてもらえたら幸いです】
↓
【ゆり@yurarinko・1分前
とっても素敵な人です。いつかデートできたらいいなって夢見ちゃいます】
鼻の奥がツンと痛み、目尻がじわっと熱くなる。
幼稚園のとき。「結婚したい」と言ったら、ゆらりちゃんは満面の笑顔で「いいよ!」と言ってくれた。
子供の他愛ない口約束。無効だってわかっている。そもそも、そんな会話をしたこと自体、ゆらりちゃんは忘れているだろう。
でも僕は、それを支えにして生きている部分がある。
だいぶ耐性がついたけれど、それでも、人の多い場所や閉鎖的な空間や汚れた場所が苦手なままだし、においや空気や視線や音に過敏に反応してしまう。
この世界で生きていくことに、僕は向いていない。それでも生きているのは、僕の未来にゆらりちゃんがいるとの希望を捨てきれないから。
「でもそう思っているのは僕だけで、ゆらりちゃんは別に、僕じゃなくてもいいんだよな……」
好きな人の幸せを願えたらいいとは思う。だけど、残念ながら僕は心が狭い。
「ゆらりちゃんが他の男と付き合うって考えただけで、蕁麻疹がでそう」
憎しみを込めて、コメントを入れる。
【ゆり@yurarinko・10分前
とっても素敵な人です。いつかデートできたらいいなって夢見ちゃいます】
↓
【ん@supenosaurusu・30秒前
無理じゃないでしょうか?】
スマホの先にいるゆらりちゃんに向かって、つぶやく。
「僕を好きになってよ」
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