花ちゃん聞いて

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 読経の響くセレモニーホール。お線香の匂いが立ち込める。でも誰も涙なんて流していない。逆に笑いを堪えるのに皆必死だった。 「言っちゃなんだけど、これで職場も平和になるわね」  葬儀が終わり職場の女子社員たちでファミレスに寄った。黒ずくめ集団に怖気づいた周囲の人たちは近寄ろうとしない。なのであまり大きな声で話せない事も遠慮なく話せる。 「本当よね。嫌味なヤツだったもんね。梨香(りか)なんて一番目を付けられてたもんね」 「私、ドジだから……」  亡くなったのは係長。嫌味なヤツだった。仕事が出来るのか分からないが、押し付けるのは上手だった。仕事も、責任も、クレームも。みんな部下に押し付けた。説明もせずにただ押し付けるのでミスも多かった。そのたび怒鳴られ罵られ、みんな疲弊していた。  特に一番新入りの梨香は標的にされた。ちゃんと教えてもいないのに仕事を押し付ける。失敗すると頭ごなしに怒鳴りつける。萎縮してまたミスをする。また怒鳴られる。その繰り返しだった。 「でもあんな怒り方はないわよ。全員の前で見せしめのように怒ったじゃない? それも仕事に関係のない事まで。あれはないわよ。良く耐えたね。偉い偉い」  水野が梨香の頭を抱え髪を撫でてくれた。同僚の先輩たちはみんないい人たちばかりだ。特に水野は梨香の面倒を良くみてくれる。だから梨香も辞めずに続けられた。 「次の係長は誰になるんだろうね。いい人だったらいいね」  そんな話をしばらくして、みんなは家に帰って行った。喪服のままショッピングもはばかられるので、梨香も真っ直ぐに家に帰った。  部屋着に着換えベットに横になった。なんとなく疲れた。梨香は枕元に置いてある人形を引き寄せた。 「花ちゃん、ただいま。ありがとうね。花ちゃんが消してくれたんだよね?」
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