花ちゃん聞いて

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 人形は何も話さなかった。ただ虚ろな瞳を大きく開いているだけだった。 「花ちゃんのお陰で明日からは落ち着いて仕事ができそうだよ」  梨香は人形を抱きしめた。  保育園の時、お誕生日のプレゼントにもらったお人形。梨香はひと目見て気に入った。「花ちゃん」と名前をつけ、社会人になった今でも毎日話しかけ一緒に寝ている。自分の誕生日は花ちゃんの誕生日でもある。毎年梨香は花ちゃんのお誕生日に手作りの服を作ってあげた。  学校であった事を毎日話した。小学生の時乱暴な男子の隣の席になってしまい、毎日いじめられた。理由もなく叩かれたりノートに落書きをされたり。その子が騒いでいると梨香まで先生に怒られた。 「あんなヤツ転校しちゃえばいいのに。見て花ちゃん、私のノートボロボロにされちゃったのよ。もう嫌」  そんな事を毎日話していると、ある日突然いじめっ子は転校する事になった。お父さんが会社のお金を使い込んで逮捕され、お母さんの実家に引っ越す事になったそうだ。  それからも梨香は花ちゃんに色々話した。嫌いな子の不満を話すと不思議とその子はいなくなる。転校したり、もしくは係長のように死んでしまったり。  梨香は花ちゃんに絶大な信頼を置いていた。花ちゃんがいるから自分は平和に暮らせている。花ちゃんがいなかったら自分は暗い人生を送らなければならなかっただろう。  梨香は毎日花ちゃんの髪をとかし編んであげる。夏には夏の服を、冬には暖かい服を着せてあげる。顔も拭いてあげる。時には口紅もさしてあげる。兄弟のいない梨香には唯一の信頼できる存在だった。
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