12人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「辞めたんですか?」
「違うのよ。今朝通勤途中で事故に遭って入院したのよ」
「え?」
「搬送された時は意識不明で、今ICUにいるそうよ」
「そうなんですか……」
梨香は心配そうな顔を無理に作ったが、心の中は喜びでいっぱいだった。
「帰りにお見舞いに行くけど、一緒に行かない?」
水野が聞いてきた。
「え……でもICUなら会えないですよね」
「それでも心配じゃない? 面会できなくてもお花くらい届けてあげたいのよ」
いつの間にそんなに仲良くなっていたのだろうか。それともただ水野は優しいだけなのだろうか。嫉妬に似た感情を覚えたが、水野1人でお見舞いに行かせるのは癪だ。
「行きます」
自分たちが行く前に死んでくれればいいのに、そう願わずにいられなかった。
仕事が終わると水野の車で病院へ向かった。途中花屋に寄り花束を買った。
「意識が戻っていればいいんだけど……」
辛そうに呟く水野の横顔を、梨香は冷めた気持ちで見て見ぬ振りをした。
「入社してまだ間がないし、あんまり話もしてないのに、水野さんて優しいんですね」
梨香の言葉に水野は真顔で答えた。
「間がなくても、同じ部署で一緒に働いている仲間よ。袖すり合うも他生の縁。会うべくしてあったのよ」
「はあ……」
水野の言葉は宗教臭くて心に響かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!