花ちゃん聞いて

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「辞めたんですか?」 「違うのよ。今朝通勤途中で事故に遭って入院したのよ」 「え?」 「搬送された時は意識不明で、今ICUにいるそうよ」 「そうなんですか……」  梨香は心配そうな顔を無理に作ったが、心の中は喜びでいっぱいだった。 「帰りにお見舞いに行くけど、一緒に行かない?」  水野が聞いてきた。 「え……でもICUなら会えないですよね」 「それでも心配じゃない? 面会できなくてもお花くらい届けてあげたいのよ」  いつの間にそんなに仲良くなっていたのだろうか。それともただ水野は優しいだけなのだろうか。嫉妬に似た感情を覚えたが、水野1人でお見舞いに行かせるのは癪だ。 「行きます」  自分たちが行く前に死んでくれればいいのに、そう願わずにいられなかった。  仕事が終わると水野の車で病院へ向かった。途中花屋に寄り花束を買った。 「意識が戻っていればいいんだけど……」  辛そうに呟く水野の横顔を、梨香は冷めた気持ちで見て見ぬ振りをした。 「入社してまだ間がないし、あんまり話もしてないのに、水野さんて優しいんですね」  梨香の言葉に水野は真顔で答えた。 「間がなくても、同じ部署で一緒に働いている仲間よ。袖すり合うも他生の縁。会うべくしてあったのよ」 「はあ……」  水野の言葉は宗教臭くて心に響かなかった。
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