花ちゃん聞いて

6/7
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 新人はまだ意識不明状態で面会は出来なかった。花束だけご両親に渡した。たった半日しか経っていないのに、すっかりやつれはてた顔で新人の母親は頭を下げた。その姿には梨香も言葉を詰まらせた。 「お母さん可哀想に。私も子どもがいるから分かるわ。心配でしょうね」  水野はしんみりと話した。 「梨香ちゃん、何があっても親より先に死んじゃだめよ。子どもの葬式を出す事がこの世で一番悲しい事なの。 私も流産した事があってね。まだ結婚前だったわ。だから産もうかやめようか悩んでた。いっその事流産してくれれば、なんて思ってしまった。そしてその通りになった。悔やんだわよ。自分があんな事思わなきゃ元気に産まれて来てくれたかもしれない、ってね」 「それは水野さんのせいじゃありませんよ」 「それでも、ね。誰も人の命を左右する資格なんてないのよ。他人の人生を邪魔する権利なんてないの。命なんて本当に儚いものだから。 これからの人生はあの子への贖罪をしようって決めたの。一生後悔しながら生きていくわ」 (資格、権利ーー。私は何人の人を不幸に陥れただろう。後悔? そんなものはない。せいせいしただけだ。だって邪魔なヤツらだ。いなくなった方が世の中のためだ)  そう思ってみたが、ふと新人の母親の姿を思い出した。泣きたいのを必死で我慢し、唇を噛み締め拳を握りしめ、震えていた。自分が事故に遭ったらお母さんもそうなってしまうのだろうか。  人の不幸を願うような性根の腐った娘だ。それでもお母さんは心配してくれるだろう。泣いてくれるだろう。娘が助かるなら自分の命はいらない、そう祈ってくれるだろう。 (ごめんなさい……!)  自分のしてきた事の重大さに気付き、梨香の目から涙が溢れてきた。 「あら、変な話しちゃってごめんなさいね。梨香ちゃん……」  泣きじゃくる梨香の髪を、水野は運転しながら撫でてくれた。自分を信用してくれている水野に悪いと思った。不幸に追いやった人たちの親に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。本人だけではなく、親や周りの人も苦しめてきたのだ。罪の重さが一気にのしかかって来た。  家に帰り、梨香は花ちゃんを抱きしめた。 「花ちゃん、今までありがとう」  そう言うと梨香は花ちゃんをダンボール箱に入れた。そして近くの神社に花ちゃんを持って行き、供養をお願いした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!