ことの顛末 Ⅰ

1/1
前へ
/19ページ
次へ

ことの顛末 Ⅰ

 後日、伊織のお父さんは弁護士を連れて、伊織に集団で『つきまとい行為』をしていた女子高生達と、その保護者達を集めて、話し合いの場を設けたそうだ。  伊織は最初の一回目のみ参加したらしい。  話し合いの日、彼女達は先に頭を下げたそうだけど、堂々と言い訳を言ったらしい。 「ちょっとした遊びだったんです。『週刊紙の記者さんごっこ』というか。ちょっとやり過ぎたかもしれないけど、ストーカーとかパパラッチとか大袈裟に言って、私達を責めるのは止めて下さい。悪気はなかったんだから、許してくれますよね」  伊織側の関係者は絶句したそうだ。  なんか、勘違いしているんだろうけど、悪気がなかったら無罪になる訳じゃねーぞ?  伊織は、「今までとても迷惑に思っていたこと」「待ち伏せや尾行や隠し撮りは二度としないでほしいこと」「今後一切、自分にも家族にも、接触も接近もしないでほしいこと」を、自分の口から伝えたそうだ。  でも彼女達は、「接触なんてしてないよ!」と言い返したという。 「他にも隠れてこっそり撮っている子達はいたのに、なんでうちらだけ責めるの?」  これには伊織のお父さんが返した。 「君達はやり過ぎたんだよ。習慣化していたでしょう。半年以上も、息子に集団で『つきまとい行為』をしたのは、君達だけだよ」  そして、伊織のお父さんは彼女達の保護者に釘を刺した。 「お子さん達が二度とこちらに近づかないよう、しっかり監督して下さい。もし再び『つきまとい行為』が確認出来たら、推薦入学の取り消し、学校から退学、という措置が行われるとしても、正式に被害届を出して訴えます」  向こうの母親の中には「子どものやることに大人がいちいち出てくるなんて、非常識なんじゃない?」と非難してきた人もいたらしいけど、父親連中は「どうか、ここだけの話で収めて下さい」と頭を下げたそうだ。  ちなみに本人達は「伊織君が? え、うちらが?」と分かっていない様子だったという。  俺が伊織に渡した音声データは、彼女達の保護者に聞かせるために使われた。彼女達が自覚を持って『つきまとい行為』をしていた事実を関係者全員に知ってもらうために。  弁護士さんによると、俺と朱里が録音した音声は、民事訴訟では証拠になるけど、刑事訴訟では証拠にならないという。判例上は認められるらしいけど。  ただ、本人の了承を得ていない録音はマナー違反だし、第三者に漏れた場合、こちらが名誉毀損やプライバシーの侵害として訴えられる可能性があるんだと。  代わりに、伊織の弟さんが撮った写真が、『つきまとい行為』の証拠として、関係者の前で提示されたそうだ。  中学三年生の伊織の弟、綜次郎(そうじろう)君は、ストーカーを蹴散らせない兄と、「お兄さんにそっくりね」と、勝手に下校中の綜次郎君を撮影してきた女子高生の集団に、怒り心頭でブチキレていたのだという。  家の前の道路でたむろする女子高生達を、家の二階の部屋から、窓越しにわざわざ使い捨てカメラで撮り溜めていたそうだ。デジタル加工が出来ないから、それらの写真は訴訟の際に証拠として認められる。  頼もしい! そして、受験の大事な時期にごめん。  俺らも受験生だけど。  でも、弁護士さんの勧めにより、取り揃えたそれらの証拠は、本人達と保護者に提示して見せるだけで、今回『訴える』ことには使わない、という措置になった。  弁護士さん曰く、『訴える』のも『接近禁止令』も、なるべくしないで、示談で済ますのが良いらしい。  「そういう問題じゃないんですけど」と伊織の両親が怒ったら、「ああいう人達が高校卒業資格を失った場合、余った時間の全てを使って復讐行為に励みます。『失いたくない社会的立場』がある方が、犯罪行為を留める抑止力になるんです」と説明されたそうだ。  よって彼女達は、裁判所に呼び出されることも、警察から『警告』を告げられることも、司法の場で『接近禁止令』を命じられることもなく、親達から娘達へ厳重注意すること、「今後、二度とこのような行為はしません」という念書に本人達がサインすること、「監督義務を果たします」という念書に保護者達がサインすることで、免除とされた。  「この誓約を破った場合、次は法的措置を取ります」と弁護士から宣言された時、本人達はともかく、親達は全員、証拠の品々と念書の写しを前に神妙になったそうだけど。  俺はその場に同席していないけど、多分『訴えられる危険性(リスク)』と『この場限りの解決策』の重要性は、親達の方が察したんじゃないかと思う。  職場やご近所に知られた場合、未成年の当事者より保護者の方がダメージを負うだろうから。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加