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ことの顛末 Ⅱ
だけど、この決着方法にも、もちろんリスクはある。
免除されたことを成功例と見なす人間が、一定数、現れるそうだ。今回の件を関係者からの恩情と認識せず、『捕まらなかった』『警察にバレても大したことなかった』という武勇伝に変えて、自分の記憶を改竄するのだという。
だから、話し合いを終えた後も引き続き、警戒は必要だ。
念書にサインした後、彼女達がスマホのローカルフォルダやクラウドに保存していた伊織の隠し撮り写真は、親から命じさせてその場で開示してもらい、その場で消去させてもらったそうだ。去年、インターネットに一時的にアップされた文化祭のショーの動画も、彼女達のデータだったらしい。
膨大な量だったのは、パスワードで制限をかけた非公式のご当地アイドルWebサイトを開設して、写真や動画を掲載するためだったという。
学校で俺にその経緯を説明してくれた伊織は、その話をしている時、一旦中座して男子トイレで吐いた。
ま、普通に考えても、気色悪すぎるもんな……。
ちなみに、彼女達の『集団つきまとい行為』は、初犯ではなかったそうだ。過去、ターゲットにした同級生達の写真も大量に出てきたため、別途大問題になったらしい。
それは遊びの『追っかけ』ではなく、遊びの『イジメ』だったそうだから、もっと深刻な案件になったそうだ。
俺はその話を聞いて、『馬鹿につける薬はない』という、とても失礼な昔の格言を思い出した。
今回のことで、注目を浴びること、モテること、好かれることの三つは、似ていても全部違うんだよな~と思った。主に、相手に対しての人権を尊重する度合いが。
気になるからって、赤の他人を希少動物のようにつけ回して見張ってはいけない。「好きな人」だからって、勝手にプライベートを侵略してはいけない。
結局、最後は「相手に負担を掛けない」という、気配りの有無が焦点になるんだよな。
……だから、俺も伊織も彼女が出来ないんだけど。まっとうな人ほど遠くに控えているから。
朱里には、伊織と俺から、一応、大雑把な顛末を伝えて、お礼を言った。
「協力してくれて、ありがとうな」
「いいえー、どういたしまして」
朱里はさらっと続けた。
「多分もともと、伊織君のこと駅とかで見かけて、気にしていた人達なんだろうね。文化祭の舞台を見て『アイドルみたいに追っかけしても許されるのかな?』って、タガが外れたんでしょ」
「お前な……」
「あはっ。ごーめーん。だから、一段落するまでは、これからも協力するよ」
そういって朱里はグッとファイトポーズを取った。
後に、校内のファンのコミュニティに『プライバシーを侵害したら、警察につき出される』という新たな知らせが告知されたと、朱里経由で聞いた。
クラスの女子達が伊織と俺に、「校内の治安は私達に任せて」と最終学年の威厳をもって宣言してくれた。
文化祭の時の演劇部の面々……男役の上原さん、菊池さん、井上さん、さらに娘役の鈴村さんや脚本担当の近藤さんまで。みんな顔が広そうだから、頼もしいような怖いような……。
ありがたいんだけど、出来れば『彼女になってくれる女の子は免除される』も追加して欲しかったな~。俺としては。
言えなかったけど。
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