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初夏の季節 Ⅰ
関係者との話し合いが終了したからと言って、きっぱり絶縁できる訳ではない。
加害者側が自主的に『接近禁止』を守っている、という日々が更新されるだけだ。「今日はたばこを吸わなかった」と呟く、禁煙中の人のように。
衝動を自制しているだけで、その人自身の嗜好や嗜癖は変わっていないからな。
伊織は「これからも一人で通学したくない」と、珍しく俺に、真正面から相談してきた。
俺と伊織は朝の登校を、早朝の時間帯に変えた。早めに一緒に学校に来て、受験勉強に専念する。
部活の朝練に出る高校生達と、早朝出勤するサラリーマンの人達と一緒になった。ストイックな真面目一辺倒の人ばかりの朝の車両は、乗車していて気持ち良かった。
「最近、瀬名と伊織、ずっと一緒にいねぇ?」
「朝はな」
クラスでつるんでいるグループは、俺も伊織もそれぞれ違う。登校の時は周囲の邪魔にならないよう、大抵単語帳をめくっているから、あまり会話もしない。
まあ、黙っていても気詰まりにならない関係って言うと、すげー仲良しに見えるかもしれないけど。
人をからかうのが好きな杉浦が、「なあなあ、なんで~?」と絡んできたから、俺は伊織に許可をもらって、クラスメイトの面々に簡単な経緯を説明した。
話を聞いたクラスの男子は「怖ぇー!」と、伊織に同情した。前科のある佐伯は、顔を青ざめさせて「マジでごめん」と謝った。駅構内の撮影会の悪口を言っていた寺崎は、「悪い。お前のこと、誤解してた」と伊織に謝った。俺には「お前は保留」と言っていたけど。
それからは下校時に、伊織が所属している囲碁部の部員がいない時、なるべく伊織が人と一緒に帰れるよう気を配った。周囲もその頼み事に応えてくれた。
まあ、俺が頼まなくても、学級委員だった伊織はみんなに「貸し」を配りまくっていたから、もともと人望があったんだけど。
修学旅行以降、彼女持ちになった佐伯が都合をつけてくれたのは『詫び』だと思うけど、『彼女いない組』の寺崎達も、よく協力してくれた。
もしかしたら駅構内の撮影会での出会いを期待していたのかもしれないけど、伊織はもう応じない姿勢だったし、ゴツめの寺崎達が四人集まると威圧感があるのか、クラスメイト以外の女子達は全然近寄らなくなった。
一応、俺も、一緒に帰れそうな日は、なるべく伊織に合わせた。
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