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秋の季節
秋になる頃にはこの騒動も一段落して、周囲も少し落ち着いた。
具体的には、向こうの女子高生達の下校時刻が変わったのか、駅や周辺の店、道沿いで、姿を見かけることがなくなったのだ。
偶然を装って伊織を遠くから視る行為は、止めたらしい。
伊織曰く、伊織のお父さんが何度か弁護士に連絡したそうだから、「そのせいもあるかも」と言っていた。
あと、俺が思うにそろそろAO入試が始まるから、推薦入学に憚る行動は控えることにしたんじゃないかな。多分。
下の学年は今、文化祭の準備に向けて賑わっている。順調にいけばおそらく、今年は、彼女達がうちの高校の文化祭には来ることはないだろう。
最終学年は受験一色だから、当日、俺達は関わらないけど。
伊織への『つきまとい厳禁』の周知徹底に協力してくれた女子のメンバーには、伊織と俺から改めてお礼を伝えた。人数が把握しきれないから、「協力してくれた関係者に、俺達がお礼を言っていたって、伝えておいてくれるか?」とも頼んだ。
「了解。連絡網で伝えておく~。でも、気にしなくていいよ。むしろ私達が去年、悪ノリしたせいだしね」とさらっと返された。
言われてみると、確かに……。
男子のみで構成された伊織の『下校時のチーム』も解いた。特に寺崎達には助けられた。
俺は今後も伊織と一緒に登下校する予定だけど。夏の県大会が終わって、部活も引退したし。
伊織と俺から「世話になった」と改めてクラスの男子にお礼を言ったら、「また何か困ったことがあったら言えよ」と頼もしい返答を貰った。
この時、その場に居合わせたクラスメイトの高木が「実は俺もさ……」と、高木自身の家の話を語り出した。
高木は伊織の下校時に一緒にはならなかったけど、一時期、伊織をからかってきた他クラスの男子をいなしてくれた、対外的な外聞を守ってくれた協力者の一人だ。
「実は俺もさ、妹の送り迎えを去年からやっているんだ。だから、伊織の事情を聞いて、すぐに分かったよ」
高木もまさかの被害者家族だった。
高木の家の場合、小学生の妹さんの登下校中、つきまとう同級生の男子児童がいるらしく、高木は親と交代で送り迎えをしているのだという。
「それ、イジメか?」
「どっちかというと、好きな子の泣き顔に興奮する、真性のヤバい奴」
その男子児童は、脚を蹴ったり髪を引っ張ったり、暴力に特化したイジメっ子なのだという。スカート捲りを防ぐため、妹さんは服装をズボンスタイルに変えたそうだ。
最初は担任の先生に『好きな子イジメ』と見逃されていたそうだけど、親が医師の診断書を見せてから、先生も教頭も被害者側の味方についたのだという。
高木が「身内の欲目じゃなくても、超美少女だよ」と言ったせいで、周囲がざわついた。
その男子児童は、先生から叱られても、クラス替えをしても、問題行為が止まないらしい。親に文句を言いたくても、親御さんのいない家庭の子なのだそうだ。
「妹は、中学は私立に行かせる予定だよ。だから卒業まで……あと三年、この生活が続く。ちょっと伊織の事情と重なるものがあるだろ?」
高木はそう言って溜め息を吐いた。
「うちの妹、脚、未だに青アザだらけだよ。学校にいる間は、友達に囲ってもらって守ってもらっているんだ。だから俺は、周囲に頼ってもいいと思ってる。伊織も無理はするなよ」
小学生低学年からストーカーって……。生まれつきのヤバい奴って本当にいるんだな。
これまでの伊織の『チーム』は『時々のボランティア』となったけど、高木の後押しのおかげで、みんなの気が引き締まった。
『好きと嫌いは紙一重』という言葉があるけど、被害者側から言えば『アグレッシブとハラスメントは紙一重』だと、俺は思う。
後日、伊織と「口頭のお礼だけじゃ、ちょっと」と話し合って、登下校を一緒してくれた男子の連中に、別途、俺の家で伊織と一緒に作った手作りクッキーを配った。プレーンとココアとマーブルにしたやつ。
みんな、「可愛い女子から貰いたかった」「何で市販じゃないんだ」とか文句を言っていたけど、その場で速攻で食ってた。
予算の都合でそうなったんだけど、まあ、大事なのは気持ちだからな。
ちなみに、俺達の学年の被害の話を聞かされているからか、今年の文化祭は王子様とお姫様の要素が徹底して省かれたと聞かされた。
朱里に「去年の文化祭は伝説として残るかもね~」とからかわれたから、俺は水泳部の後輩に「去年を上書きしておいてくれ」と念押しした。
「嫌です」と固辞されたけど。
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