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バレンタインデーの回想 Ⅰ
去年の文化祭で『ロミオとジュリエット in マジックボックス』という舞台に立ってから、俺と伊織は、結構声を掛けられた。校内はもちろん、校外でも。
駅で他校の女子に声を掛けられることもあったし、頼まれてツーショットも撮ったりした。
恥をかいてでもロミオを演じた甲斐があった。
だけど、残念ながら。
俺への告白はなかった! 全く!
朱里曰く、ファンのコミュニティ内で『抜け駆け禁止令』が出たらしい。
なぜ! 俺達の意思は!?
「熱が冷めて、皆が飽きるまで、カノジョは作らない方が良いよ。好きな女の子には安全な高校生活を過ごして欲しいでしょ?」
何、その極端な理論。
「怖ぇ~。そして、俺達の人権がない。酷ぇー」
「ぃよっ! ア・イ・ド・ル」
「なった覚えはない」
文化祭以降も、俺と牧原朱里はタメ口で会話する間柄だ。こいつは女子の皮を被った男子だから。良い意味で。
「バレンタインデーだけどね。うちのクラスは皆でお金を出しあって、瀬名君と伊織君に箱でチョコを贈ろうって決まったよー。大変だろうけど、ホワイトデーにお返しする場合は、全員に公平に、平等に、ね!」
「えっ? 俺達、破産するじゃん!?」
「頑張って。本命との予行練習だと思って」
「そんな」
伊織に相談したところ、良いアイデアを聞かせてもらった。
「俺は飴のバラエティーパックの大袋を買う予定。教室の後ろの棚に『ご自由にお取りください』って書いたメッセージカードを添えて、当日置きっぱにして教室を出ようと思う」
「いいな、それ! 俺も一緒に置かせて」
「いいよ」
家に帰ったら「飴オンリーじゃ味気ないでしょ!」と主張する姉の意見に押され、俺は手作りのブラウニーを添えることにした。材料費だけなら小遣いの範囲内。
勧められたのは、単に姉の手作りバレンタインデーのチョコがブラウニーだったからだ。二月の一週目、俺はその練習に付き合わされた。
三月は姉が「お礼」と称して俺を手伝ってくれた。……というか、俺が二月に貰ったチョコのほとんどは、甘いもの好きの姉と母の胃袋に消えたので、本当の意味で「お礼」だった。
ちなみに、バレンタインデーの当日、クラスのみんなの前で貰ったチョコは、箱のサイズがでかかったから、俺は一応、「教室で開けて、クラスの男子みんなで食べようか」と提案したんだ。俺と伊織だけが特別扱いされんの、悪いな~と思って。
でも、「ホワイトデーのお返しが大変そうだから」と遠慮された。
……なんだかなー。甘酸っぱいラブはどこにあるんだ。奈辺か。
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