バレンタインデーの回想 Ⅱ

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バレンタインデーの回想 Ⅱ

 ホワイトデーの前日、俺はブラウニーを焼けるだけ焼いたあと、小さく切って、百円均一の店で購入しておいた紙パックに敷き詰めた。  ホワイトデー当日の昼休みは、伊織が買ってきた飴の大袋と共に、爪楊枝のパックとブラウニーを詰め込んだ紙パックを、教室の後ろの棚に置いておいた。  添えた山折りのメッセージカードは、『バレンタインデーのお返しの飴です。ご自由にどうぞ。from 伊織稜一郎』と『俺の手作りです。ご自由にご賞味下さい。by 瀬名一司』の二枚。  俺達の『バレンタインデーのお返し』の告知は、朱里が女子のネットワークを使って(あらかじ)め広めておいてくれた。  俺と伊織は昼休みの間、茶道部の部室で弁当を食って過ごした。部室を開けてくれた茶道部員の池田達と一緒に。 「瀬名~。もし余っていたら、俺らも食って良い?」 「いいよー」 「俺の飴も持ってって良いよ」 「日持ちするから伊織の飴は()けているだろ~」  果たして。  教室に戻ったら、ブラウニーも飴も全部無くなっていた。メッセージカードの裏を見たら、字体の違う『ごちそうさま』『ありがとう』『おいしかったです』という手書きのメッセージが小さく書き込まれていた。寄せ書きか。  惜しむらくは誰がどの字なのかが分からないことだけど。  教室に残っていたクラスメイトに聞いたら、他クラスの女子だけじゃなくて、一年の女子も来ていたらしい。多分、下校中か駅でチョコをくれた子達だと思う。  そして、順当に誰からも告白されないまま、俺達は三年に進級した。  伊織はちょっと怪しいけど、周囲の突き上げに口を割らなかったから、多分、彼女はいない。  夏の部活の大会と、受験勉強に集中する、最後の高校生活が始まった。
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