修学旅行 Ⅰ

1/1
前へ
/19ページ
次へ

修学旅行 Ⅰ

 始まってみると、なんだかんだ京都の修学旅行は楽しかった。  姉に「参考資料として写真撮ってきて~」と頼まれたから、俺だけ半分取材をかねていたけど。  格天井(ごうてんじょう)とか、屋根の万十軒瓦(まんじゅうのきがわら)とカエズまたぎ鬼の部分とか、マニアックな指定を貰った。家紋瓦の資料を使って、時代モノを創作したいらしい。  ……京都は何百年も昔から現在まで全部が現役だけどな。  修学旅行の一日目は城だった。玉砂利が敷かれた庭園は綺麗に手入れされていて、砂利に足をとられたから、「忍者でも無音で忍び込むのは無理」と皆で話した。  二日目は寺だった。座禅中、背中を叩いてもらった。『警策(けいさく)』といって、歩いてまわるお坊さんに頭を下げると、生徒の希望に応えてパシッと棒をあててくれる。音は響くけど、痛みはない。不思議な爽快感があった。  家の宗派の関係でお堂に上がれない生徒が何人かいて、控え室のある建物で待たされていたから、終わった後にわざわざ話題にはしなかったけど。  三日目は班ごとに分かれて自由行動。俺達は旅行ガイドブックに載っている有名な観光名所と、学問の神様の神社、説法が面白いことで有名なお寺を一つずつ選んで、あとはお土産選びの時間に当てた。  本当のことを言うと、行きたい神社仏閣は他にもあった。でも、格式が高すぎて、修学旅行のついでで訪問するようなところではなかったから、遠慮することにした。  二年から持ち上がったうちのクラスの担任、ハマセンこと浜田先生は、クラスの生徒に適当に声を掛けて、適当に写真を撮っていた。  「卒業アルバムに載せるから、受け狙いで変な顔すると後で後悔するぞ~」と言いながら。  覚悟はしていたけど、自由行動の時間になった途端、異性からの呼び出しで班のメンバーがバラけた。生徒間で事前に連絡が回ってきていた『告白イベント』だ。  「絶対、集合時間に遅れるなよー!」と言いながら、各自を見送った。  最終的に俺と伊織だけが班に残された。 「とうとう俺達だけになってしまった……」 「瀬名。ポジティブに考えよう? 身軽になった分、融通が利くよ」 「……それもそっか」  俺達は途中で鉢合わせた朱里の班の女子達や、部活で仲の良い、他クラスの男子の班と一緒に回った。  観光先を変更することはしなかった。俺と伊織のレポートを、後で同じ班のメンバーに写させる予定だったから。有料で。  学食一食分で手打ちだ。『青い春の思い出作り』の協力者だから、このくらいは許されると思う。  俺は伊織と一緒に、やけくそで写真を撮りまくった。おかげで俺のスマホのデータフォルダは、他班と他クラスと伊織の写真ばっかのカオスなものになった。向こうのスマホも多分……。  後でデータを本人に渡そうと思っている。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加