修学旅行 Ⅱ

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修学旅行 Ⅱ

 最終日の夜、宿泊先のホテルで問題が勃発した。  上の階にある女風呂の露天風呂から、斜め下の階にある男風呂の露天風呂が見えたらしい。端っこだけ。  昨日、一部の女子が「覗いたら見えてしまいました」と担任の先生と保健の先生に報告したため、今日の女風呂の露天風呂にはホテルのパーテーションが急拵(きゅうごしら)えで設けられたそうだ。  後から男の教師陣に知らされた男子の面々は、阿鼻叫喚。見た目、静かなお通夜だったけど。  女子ー! 誰を見たんだ!? 誰が見られたんだ!? それ、多分、軽犯罪法に引っ掛かるヤツー!  被害者の男子生徒──もしくは他の階の宿泊客──が不明なため、話はそのまま流れた。露天風呂に浸かっていない面々は胸を撫で下ろしていたけど。  俺は屋内の大浴場までだったから、セーフ。伊織はそもそも具合が悪いと言って、部屋についてある個室風呂を利用していたから無事だった。  夜は枕投げ大会で、ショックを発散した。  そして、この時間帯に、お昼の自由行動の時に告白し損ねたどこかの奴らが、スマホで相手を呼び出して『告白イベント』にチャレンジしたようだ。  それは夜間の見回りの先生に見つかった。よりにもよって生徒指導の先生に。  それから、先生達の『ちゃんと就寝しているか、個々の個室を開けて人数確認する見回り』作業が始まったという……。  生徒間のLINEで緊急連絡が回ってきて、慌てて布団に隠れたところ、俺達の部屋は、一回目の点呼(てんこ)に間に合った。 「ちゃんと人数、揃っているか~」 「スリッパが人数分あります。ここの班は大丈夫でしょう。……うん、皆、寝ているな。よし」  一応、先生達は小声で気を使ってくれた。抜き打ちチェックを受けているこちらは心臓バクバクだけど。  ハマセンなら交渉できる。でも、生徒指導の先生は交渉出来ない。  今も、見つかった面々――『告白イベント』のカップルだけではなく、集団夜更かしを理由に捕まったメンバーも、廊下で説教を受けているそうだ。布団に大人しく横になっていたメンバーの生き残りが、緊急連絡をみんなに回してくれた。  後日、そいつらは反省文を提出させられるらしい。南無三(なむさん)。  なんで叱られるのかというと、この旅行は「観光」ではなく、「学問を修める」ために来ているからだ。  学生の本分は青春じゃなくて、勉強だから……。
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