最初に入った隠れダンジョンで一国を揺るがせるほどの莫大な価値の宝物を手に入れたけどこのあとの冒険どうするよ?

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 俺は勇者。名前はまだない。でも勇者なのだから冒険に出発しなければならない。渋々パジャマから勇者の服に着替える。そしてお城に向かい、例のように王様に会い「我が国の平和勇者殿にかかっている。我が姫、ピチピチ姫を助け出してくれ」とか言われ、例のように旅の準備として武器屋で装備を購入する。  取扱商品は棍棒や鞭、ナイフなどの激安商品。当然だ。俺はまだレベル1。普通の勇者の初期設定は50バリーしか持ち合わせていないから。 「すみません。最強の剣エクスカリバーはありませんか?」  呆気に取られた商人は軽くあしらう。 「おいおい冷やかしなら帰ってくれよ。売ってるわけないだろ。ここには棍棒と鞭とナイフしか売ってないよ。そもそも、そんな金、お前さんが持っているのか?まだレベル1だろ?」 「お金ならいくらでもあるんで」そう言って勇者は金銀財宝を目の前にばら撒いた。 「何でこんな大金を。ちょっと待ってくれ。ここにはないが、知り合いの武器屋にエクスカリバーを持ってこさせる」 「なるほど。これがエクスカリバーか」  勇者がエクスカリバーを一振りすると武器屋の壁に亀裂が入り家が崩れた。  武器屋は唖然としていたが、1000万バリーを渡すと、「家が2件建つくらいの大金だ」と泣いて喜んだ。 「これは凄い。レベル1の俺でも簡単にモンスターを倒せる」  勇者の攻撃力は7→109に上がった。  旅に出る前日、たまたま入った隠れダンジョンで一国を揺るがせるほどの莫大な価値の宝物を手に入れた名もなき勇者。  いきなり富豪になってエクスカリバーを手に入れて気が大きくなった勇者は、レベルも上げずに勢いでこの区域のラスボスがいるダンジョンに向かった。しかし、エクスカリバーによって攻撃力は高くなったものの、防御力やHPは低く少しのミスが命取りになるため、小物モンスターたちから逃げ回り逃げ回り振り切り振り切りようやくこの区域のラスボス、ロンダズまでたどり着いた。  ダンゴムシのように頑丈そうな黒光りしている皮膚。口から度々火を吐くロンダズの姿を見て勇者は足がすくんでいる。  やばい。俺のレベルじゃエクスカリバーを以ってしてもロンダズを倒すことはできないような気がする。どうする?  ロンダズは絶えず火を吹いて勇者を睨んでいる。  勇者は意を決して言い放った。 「あのさ、これやるからピチピチ姫を返してくれ」  勇者は1億バリーの札束をロンダズの目の前に投げた。 「バカめ。金なんかに釣られる俺様ではない」  ロンダズはそう言って目の前の大金を二度見し、ゆっくりと手に取り懐に入れ、姫を引き渡してくれた。そして口から火を1発吹いていった。 「お前の言う通りにしてやったわ。だからこれだけは守れ」 「なんだよ。賄賂を受け取ったくせにまだ何かあるのか?」勇者は呆れた。 「これからこのダンジョンにいるモンスターの群れを解体し、俺自身は雲隠れする。だが俺にもモンスター達にもプライドがある」  ロンダズは一呼吸開け、意を決していった。 「今から言うことを吹聴しろ。俺は持病の悪化で何処かに身を隠した。お前から賄賂なんかを受け取っていないしお前に戦いで負けたというわけでもない」 「わかった。噂を広めればいいんだな」  ロンダズはかつてとある勇者の側近として活躍していた。 どんな時もその勇者を慕い守り抜いてきた。しかしとある街で主人である勇者が酒に飲まれてギャンブルに手を出し借金を抱えた。勇者の肩書きを剥奪されることを恐れた主人は、ロンダズの印鑑を持ち出し連帯保証人にさせられてしまったのだ。結局借金だけ作って勇者とはパーティーを解散。ロンダズは田舎に体調が思わしくない母と3人の幼い兄弟がいて女手一つで育ててくれた母親に毎月仕送りを送っていたのだが、それもストップせざるをえなくなった。それが引き金となり主人、ひいては勇者への怒りが沸き上がって、モンスターの群れを興すに至るのだった。 「そう言うことだ。わかればいい」 「ああ。俺としてもお金で平和的解決ができれば問題ないし噂話を吹聴することなんて容易いこと」 「俺は勇者という生き物が嫌いだ」ロンダズの言葉のあと周りに静寂が流れた。そして急にかしこまって言った。 「何から何まですまない。これだけの金があれば故郷の母親と弟たちを助けることができる。勇者殿、ありがとう」  ロンダズは深々とお辞儀をした。彼の足元は涙で濡れていた。  俺は王様の命に従いピチピチ姫を助け出し、お礼としてエクスカリバーよりも攻撃力のはるかに劣るロトの剣を手に入れた。  まさかロンダズに最敬礼されるとは。  ロンダズは故郷に帰り、モンスターの組織は消滅。さらに、これまで人質としてとどめていた近隣諸国のお姫様までも解放され俺は各国で讃えられた。    それにしてもたまたま見つけたお宝が一国を揺るがすほどの大金で、その金を使って第一のラスボスを買収し姫様を助け、王様から感謝された。俺は一体何をしているんだ。  結局勇者というレールの上を、バカみたいに闊歩しているだけじゃないか。それも大金を利用して。俺はそんなことがしたいわけではなくただ自由に生きたいんだ。いろんな経験をしたいんだ。  それなら、これからはこの大金を使って思うがままに進む冒険に出よう。何かが起こってもきっとこの大金が助けてくれるはず。  勇者は軍用機を購入、いきなりラスボスのいる洞窟に向かった。勇者の 『今年中にやっておきたいto doリスト』の一番最初が  「ラスボスを倒してエンディングを味わってみたい」  だった。正確にはラスボスを倒しに行くのではなく買収しに行くのだが。  5億バリーの軍用機はラスボストロッシーニのいる砦に降り立った。  勇者は砦に入り、小物モンスターを買収したり逃げたりしながら難なくラスボスにたどり着いた。 「よくここまできたな。聞いていた時期よりもはるかに早いがまあいい」 「お金をあげるからさ、俺がお前を倒したことにして。そしてエンディングを見たいんだけどどう?」勇者は札束を手渡そうとしたが「金はいらぬ」ラスボスに手を祓われた。 「買収できない」困った勇者は途方に暮れたが、小一時間考えた挙句退散した。  ああいう真面目なやつは困るよな。お金では釣られないっていう強い意志を感じたもんな。もう一度行くにしても、いざ戦闘シーンになった時のために、仲間がいた方がいいかもしれない。  それなら魔法使いがいい。魔法はお金では得られない能力だもんな。 「ねえねえそこの魔法使いくん、1000万バリーあげるから僕の仲間にならない?」  街でナンパするように勇者は声をかける。相手は魔法使いのポッポだ。 「さっきから断ってるだろ。ついてくるなよ」 「お前が優秀な魔法使いで王様にも忠誠心があると紹介状に書いてあるんだ」  勇者が王様の元に姫を連れ戻したとき、今後の冒険に必要な仲間の紹介状を王様から受け取っていたのだ。 「今僕は新たな魔法を覚えたいから君と冒険してる暇はない」  ポッポは幼い頃から目立たないように生きてきた。魔法学校に進学しても性格は大人しく派手な魔法を覚えることはなかったが、他の生徒たちはポッポと正反対に派手で目立つ魔法ばかりを覚えていた。火の魔法やら水の魔法やら。雷の魔法やら。  僕ら魔法使いは勇者を支える立場なのにどうして。  自分はそうじゃない。強力な魔法を会得して、自分が目立つためではなく周りの人たちを輝かせるために魔法を使いたい。そう決意し旅に出た。  いつかきっと老師様に魔法を教えてもらう。魔法使いの祖と言われている老師様に。 「僕につきまとうことは勝手だけど、今僕が君の冒険について行くことはできない。僕には老師様に会うという大義があるんだ」   「ローカイアの踊り子って、あの絶世の美女と言われている、ローカイアの踊り子ですか?」ポッポが困惑気味にいう。 「ローカイアの踊り子って言ったら高級嬢の集まりで向こう1年は予約が取れないって言われてるんだぞ。じいさん何を言ってんだ?」 「とにかく、ローカイアの踊り子ヤムコちゃんを連れてきたら魔法を教えてやろう」老師は照れながら答えた。  ヤムコという踊り子を調べたらその界隈ではかなり有名らしく、やはり1年先まで予約が埋まっていて、ヤムコと遊ぶのは難しい。ヤムコと遊ぶためには1年以上先の予約をするか、大金を積んでスケジュールを変更してもらわなければならないということがわかった。  僕にはそんなお金がない。今年中に魔法を覚えて村に帰る予定だったのに断念しなければならないのか。  そんなポッポに、見かねた勇者が手を差し伸べた。 「ローカイアの踊り子、俺がどうにかしてやるよ」 「ポッポ、それが火の魔法かよ」「ポッポの火の魔法は小さすぎてマッチの火にも及ばないぞ」「蚊に刺されたくらいの攻撃力だな」「ポッポの火の魔法は刺激が少ないから肩こりとか腰痛に効くんじゃないか?攻撃魔法じゃなくて回復魔法だな」「校長先生に使ってみろよ。校長先生は高齢者だから感謝されるぞ」  クラスの皆が笑う。  僕は攻撃魔法を極めたいわけじゃない。僕は周りの人を輝かせる魔法を習得したいんだ。火の魔法は必須授業だから仕方なく覚えてるだけなのにどうして皆に馬鹿にされなきゃならないんだ。  魔法学校の授業は攻撃魔法、回復魔法、その他様々な課題があるが、その中でも攻撃魔法の授業は成績が露骨にわかってしまう。普通の学校の体育みたいなもので、クラスの皆の前で課題を披露しなければならず、さらに攻撃の強さ、魔法の効果範囲など成績の良し悪しがはっきりとわかる。対して回復魔法の場合、魔法を放つ人と被る人の相性があり明確な結果は見られず、教師の判断によるところが大きい。なのでポッポの回復魔法がクラスで評価されることはなかった。  いつか必ず人を輝かせる、幸せにする魔法を会得するんだ。 「いいよいいよ、ヤムコちゃんかわいいね」  老師は踊り子ヤムコの優雅な舞を真剣かつニヤニヤしながら見ている。  ポッポはヤムコの舞をほとんど見ず老師の方に体を向けイライラを抑えながらいった。 「あのー、老師様、魔法は教えていただけるのでしょうか?」  老師はゆっくりとポッポの顔を見て目を瞑り「うるさい」とだけ言ってすぐにヤムコの舞に魅入った。 「このじいさん本物か?変なじいさんに騙されてるんじゃないのか?」  勇者は疑っている。 「そんなはずはない。子供の頃に見た老師様そのものだ」 「ただのそっくりさんで、それで儲けてるペテン師かもしれないぞ」  ポッポは少し不安になってきた。 「君に大金を支払ってもらった上に老師様が偽物だとしたら君に申し訳が立たない。もう実家に帰って農家を継ぐ他ないよ」 「俺のことは気にするなって。この前、俺が助けた姫様が特技は踊りって言ってたのを思い出して、側近に連絡とったら姫様とヤムコは学友っていうからびっくりしたよ。しかも友達価格でヤムコを呼ぶっていうからさ。な、ピチピチ姫」  勇者は横に座っているお姫様に馴れ馴れしくいった。 「ウザ。まああんたには助けてもらった恩があるからね」勇者の馴れ馴れしさに軽く怒り気味の様子で「それにヤムコは腐れ縁だから私が呼べばすぐ来てくれるのよ」姫様はヤムコに聞こえるように大声でいった。  それを聞いたヤムコは突然舞を止めてピチピチ姫に近づいてきた。 「何が腐れ縁よ。別に断ってもよかったけど金づるができたってあんたがいうから付き合ってんじゃないの。こいつは勇者のことを金づるにしか思ってないからね」 「いいよ。俺のあぶく銭でポッポやこのじいさんや、あんたたちも幸せになってくたら俺は嬉しいよ。そんなことよりじいさん、はやくポッポに魔法を教えてくれないか」 「お前たちはせっかちじゃなぁ。ヤムコちゃん、今日はちょっと疲れてるでしょ。ヤムコちゃんの最高のパフォーマンスを見たいから、ちょっと魔法を使うね」  老師は自分の手をゆっくりとヤムコにかざし、波動を送った。 「あれ?体が急に軽くなった。さっきまで体が重かったんだよ。昨日はオールでカラオケ歌って踊ったからさ。それなのに、これ何?逆にキモイ」  老師の魔法は狙った人の能力を200%UPさせるものだった。 「わしの魔法の効果じゃ。その体でもう一度舞をお願いしていいかな?」 「断るつもりだった合コンがこれからあるんだけど体軽くて顔とか肌の調子最高にアガッてるから行ってくるわ。じいさんありがとう」  ヤムコとピチピチ姫は二人で合コンに行ってしまった。   「お疲れお疲れ。魔法覚えるの、やたらと時間がかかったな」  ポッポがくたびれた様子で老師の道場から出てきたのは修行が始まってから1ヶ月後のことだった。  その1ヶ月間、勇者は老師の家の看板猫のモウシくんと遊んでいたのだが、俊敏なモウシくんのおかげでいつの間にか勇者のレベルが2になり素早さと攻撃力をUPさせた。 「修行した甲斐はあると思うよ」  ポッポは自信満々にいう。 「じゃあせっかくだから、何か覚えた魔法を使ってみなよ」  ポッポはじゃあといって両手を上にかざしエネルギーを溜め始めた。そしてその溜めたエネルギーを思い切り勇者にぶつけ「シャグアーナ!」と叫んだ。 「やめろ、何で俺に攻撃するんだよ!あれ?何もないぞ?あのじいさんに騙されたか?」 「勇者、その剣であの岩を砕いてみてよ」 「あんなどでかい岩を?たとえエクスカリバーを装備してても、俺のレベルじゃ無理だよ」そう言いながら剣を振りかざすと、轟々と地鳴りが起きて岩が真っ二つになった。 「これが僕が習得した魔法。君の攻撃力を最大限にUPさせることができるんだ」 「軽く振り翳しただけなのに岩が粉々に。すげー」 「武器だけじゃない。鎧だって最大限の防御力になる。ただし、その効果は5分間だ」 「これなら今からラスボスのところに行っても絶対勝てる。ポッポ、頼んだぞ」 「わかったよ。君には恩があるからね」  こうして勇者とポッポはラスボスのいる洞窟に向かい、最速でラスボスを倒した。そして二人は何も決められていない冒険に出るのだった。 「ポッポ、この後の冒険どうするよ?」
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