空腹に候

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自慢ではありませんが、お腹はいつもすいておりますですよ。  体重一〇四キロという巨体を有しております私からすれば、生半可な不摂生でこのわがままボディを醸成させたわけではございませんからね。  まあ……この極度の肥満が高校時代不登校につながり、中卒という最終学歴を叩き出して、ひきこもりがこうじて昼夜逆転生活、ニート&子ども部屋おじさん、若年時からのハゲへとつながり。  コンプレックスの塊となった私は五十歳のいままで真性童貞という、「負の総合商社」と呼ばれるにいたるわけでございますですよ。  寄り道は、いいんですよ。  とにかく食べている時こそが、私の現実から逃避できる桃源郷なのでございますですから。  やはりゆっくり午前十一時に起床した朝はバナナ、これにチョコレートクリームを極厚に撫で付けましてゴージャスなチョコバナナをいただきます。これで一房(4~5本)はいけますね。  さらに食パン一斤を丸ごと使用して、真ん中の白くて柔らかい部分をくり抜き、たっぷりのバターとアイスクリームを混ぜまして自己流ハニートーストをいただきますですよ。  はい、喉も渇きますから飲み物は2リットルのペプシコーラ(ダイエット仕様ではないやつです)をがぶ飲み。  これで優雅な朝食を終えますと、さすがに満腹ですからお昼寝タイムになります。  午後三時頃起床しまして、ネットでゴシップ等の下品な記事をあさりまして、匿名掲示板に気晴らしの書き込みをねっとりといたしますと、気分上々となりまして、おやつの時間に突入でございますね。  おやつの定番といたしましては、ネット通販で購入したファミリーサイズのポテトチップスです。バカデカいポテチを頬張りますと、甘い物がほしくなり、こちらも業務用のピーナッツチョコをむんずとつかみまして口へと放り込む次第でございます。  そうすると「塩辛い→甘い」「甘い→塩辛い」の無限ループが完成し、気がつくとポテチとピーナッツチョコのドデカい袋はたちまちカラになっております。  ポテチとチョコの脂にまみれた指をチュパチュパ舐め取りまして、「午○の紅茶ミルクティー」2リットルペットボトルをラッパ飲みいたしますと、私のアフタヌーンティータイム終了でございますですね。  こう見えて根が紳士にできております私には、欠かせぬリラックスタイムでございます。  さて、食欲を満たせば次は性欲とばかりに、ネットでF○2動画のサンプルを巡回しておりますと、あっという間に夕食の時間がやってまいります。  二階にある私の部屋の襖がスッ……と音もなく開きまして、刑務所の独房みたいに夕食が母親から差し入れられるのですね。  そこは家族の鼻つまみ者、腫れ物を触るように敬遠されております私でございます。  何日も顔をあわせていない老母に、  「いただきます」  と襖に向かってお礼をいいまして、おや、今晩のメニューはカレーライスでございますか!私の大好物でございますですよ。  五合炊きの炊飯器にはアツアツの白米が炊き上がっておりまして、大鍋には「ハ○ス・バー○ントカレー」甘口のルーが具だくさん満杯でございますねー。  はい、私舌がお子ちゃまにできておりまして、中辛以上の辛さのカレーは断固受け付けません。なんなら「カレーの王○様」でも大満足でございますよ。  さて私流のカレーの食事法は、北欧のバイキングのごとき雄々しさで、お玉でカレールーを炊飯器のご飯に直接ぶっかけて、飲むがごとく胃に流し込むという、故ウガンダ氏の仰った「カレーは飲み物」という至言を踏襲したものでございますね。  私は下戸なもので、アルコール類は一滴たりとも身体が受け付けはいたしませんが、カレーライスを飲む(とあえて申し上げましょう)ときは「酒は飲め飲め、飲むならば」と黒田節を唄う古の豪傑たちのように、一気飲みでございます。  食後は黒田節で叩かれる鼓のように、己の太鼓腹をポンポンとリズム良く叩いて、ご機嫌のうちに、  「ごちそうさまでした」  と誰もいない襖をスッ……と音も立てずに開けて空になった炊飯器とお鍋を返却いたしまして、ディナータイム終了でございますですね。  「満腹→昼寝」という強固なルーティンはデブ界においては鉄則となっております。  もはや夜になっておりますが、五合飯を平らげた胃袋は睡眠を欲しており、布団をかけて数時間の「夜寝」に落ちます。  気がつくと深夜十二時を回っており、  「おや、小腹が空いてきたな」  と感じ始めるわけでございまして、両親が眠っている中、そっと台所に行き「ペ○ング・超超超超超超大盛りやきそばペタマ○クス」というデブ御用達の巨大インスタント焼きそばを調理いたします。  ヤカンを火にかけ、お湯を沸かしている間に、ふんだんな薬味を調理いたしますですよ。  そう、二キロの豚バラ肉の塩コショウ炒めです!これを焼いているときには香ばしい香りが立ちこめて、嫌が応にも夜食への食欲がマックスゲージに突入いたしますですね。  巨大カップ焼きそばが出来上がれば、その上に調理した豚バラ肉をドン!と乗せ、マヨネーズをたっぷりカップの隅々にまでかけますですよ。  そうなれば天下無双、絶倫の「ドデカカップ焼きそば豚バラ焼き肉のせマヨネーズがけ」 が完成いたします!  このインスタント焼きそば・豚バラ・マヨという三種の脂が絶妙なハーモニーを奏で、私は恍惚とした表情でそれを掻き込みつつ、舌鼓をうつのみでございますですよ。  飲み物は「ファ○タ・グレープ2リットルペットボトル」が相性抜群ですね。  ここでも「塩辛い→甘い」「甘い→塩辛い」の無限ループはもちろん健在なのです。  さあ、満腹満腹。  今日も一日パーフェクトな食生活を満喫いたしました。  とはいえ、朝になるとまたお腹がすいてきて、チョコレートクリームをベッタリ塗りたくったバナナとハニートースト一斤が食べたくなるのですが……まあ、その使命は明日の私に任せましょう、ということでネットの深夜アニメを巡回いたしまして、明け方に眠りにつくわけでございますですよ。  糖尿病や心疾患、膝が大丈夫か、ですか?  そーんなもの気にしてたら、こんな食生活してるわけないじゃないですか!  皆さまは、生きることに手が込みすぎているんですよ。  美味しいものをたらふく食べ、お腹がいっぱいになったら横になって眠る……それを繰り返して、ある朝いつまでも目覚めない。  それが、私の理想の死に様でございますですね。  節制してガリガリの身体を維持しても、死んだら骨しか残んないんですよ。  あの世に何も持ってけないなら、好きな事して人生を謳歌した方が楽しいんじゃないですかね。  まあ失うものがない「無敵の人」状態の私ならではの死生観なので、誰も参考にする人はいないでしょうけれども……。  あら、余計なことおしゃべりしてましたら、また小腹がすいてきましたよ。  そういえば、昼間に母親がパートでもらってきた「ミス○ードーナツ」が台所においてありましたですね。  この時間が経って、油を吸いまくったドーナツの熟成された芳醇さを味わいましょうかね。  それでは皆さま、ごちそうさまでしたっ。                   終
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