αυφ-6ρψη

1/1
前へ
/9ページ
次へ

αυφ-6ρψη

 孵化から二十八日が経過した。猛獣の子供を育成しているという意識を持ちながら我々はΛ2の飼育を行っているが、正直なところ、拍子抜けしているというのが率直な感想だ。  飼育ケースの内部の気圧は、ヘヴィンでの一気圧と同等に調整され、大気濃度及び成分も同一のもので構成されている。地球大気下で成長する生物の成長速度を上回る速さでΛ2は成長し、餌を求め、既にその体長は二十二センチも増加した。必要な餌の量も増え、日に日に体重は数十グラムずつ増えている。  それだけ、と言ってしまえばそうだ。確かに成長速度の早さは驚嘆に値するし、成長期を短くし短期間で成獣へ成長することで、自分より体の大きな外敵から襲われにくくなるという理に適った種の進化を遂げていることも頷けた。  そして何より、Λ2は大人しい。とても従順で、およそ星の頂点に君臨する生物の子供とは思えないほどだ。  その様子は、三日経っても四日経っても変わらないままだ。コカトリヌスと戦わせ狩猟本能を刺激する実験を試みてはどうかという意見も出て揉めたが、結局、まだ小さなサンプルを危険に晒すわけにはいかないという結論に落ち着いている。  しかしそれ故に、実験観測に目立った変化が見られないまま、いたずらに時間は過ぎていく。  そんな或る日、業を煮やしたらしいリュウが提案した。 「どうだろう、サイファーの実験施設へ移しては?」 「馬鹿な。シャルルークの教訓を忘れたのか」 「しかし主任、見てください。まるで大人しい。大きさ以外はまるで仔猫だ。孵化から今まで何の問題も無く、生態的特徴が殆ど判明していません。地上環境ならもっと大規模な実験が出来ますよ。Λ2に関してなら、上も融通してくれるでしょうし」  正直に言えば、私もリュウの意見に賛成したい。シャルルークの悲劇は忘れていないし、職員は皆その記憶を脳に刻んで日々研究に臨んでいる。だが、飼育下に置かれてしまったΛ2という生物の真の姿を拝む為には、より整った環境が必要かも知れない。  そういうことになって、四日間に及ぶ幹部会の協議を重ねた結果、Λ2のサイファー前哨基地生態研究部署への移送が決定した。  エウレカの回転柱の無重力帯を進みながら、ケース内でΛ2はやはり大人しかった。凶暴な見た目に似合わず、本当に大人しい。最初は不気味に思えた二対の目も、今では可愛らしさを覚えるほどだ。  もしかしたら、鳥の刷り込み本能のように、産まれた時から手懐けることで主従関係を結べるようになるのかも知れない。もしもΛ2を飼い犬のように躾けられたならば、それは人類にとって大きなメリットになるだろう。  パトリックとリュウに続き、私と職員二人がケースを引っ張りながら、連絡船へと乗り込む。これから、ケースは貨物室にしっかりと固定しなければならぬ。しばしのお別れだ。 「またな」  何とはなしに、そう気安く声を掛けてみた。  キイ、とΛ2が細い鳴き声を上げる。  何処か、笑っているようにも聞こえた。 (了)

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>