一 二〇十一年十月

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 一 二〇十一年十月

 山田進[源氏名・一条咲夜]と佐伯琴子は死者を介して出会った。故に、一条咲夜が佐伯琴子を欲したその時、彼の運命は決定した。  彼女に殺される、と。  佐伯琴子が欲するものはただひとつだ。愛を囁いた唇で彼女は問う。 「殺されたいの? それとも死にたいの?」  一 二○十一年十月  タクシーが鶴見駅に近づき、学生の姿を多く見るようになった。詰襟の男子学生、青いチェックのスカートの女子学生、これらは鶴見駅に近い高校の制服だ。他にはセーラー服の少女二人が信号待ちをしている。誰かに呼ばれたのか、セーラー服が同時に振り向いた。その視線の先ではデニムのパンツを穿いた少女が走っている。  咲夜は窓に張りつくように顔を寄せて、たくさんの制服や私服姿の中に視線を巡らす。話に聞いていた通り歩道にはセーラー服の少女が多いが、ひとりひとり統一感のない色や形をしていた。あちらはひらひらとした車ひだスカートかと思えば、こちらはきちんとしたボックススカートといった様子だ。このような多種多様なセーラー服になっているのには理由がある。セーラー服は鶴見駅周辺の学校の制服にない。琴子がそう言っていた。 「琴子の通ってる高校はね、服装が自由なの。でもみんな制服を着たがるんだ。セーラー服が、いっとう人気なの。形も色もたくさんあるんだ。鶴見駅の近くにセーラー服の高校はないからね、そこらへんでセーラー服見たら、きっと琴子と同じ学校の子」  拙くあどけない、琴子独特のしゃべり方を思いだして、咲夜の唇の筋肉が弛緩していく。目を瞑れば、じっと見上げてくる大きな瞳と、咲夜としゃべることが楽しくて楽しくて仕方ないといった様子の琴子が浮かんだ。 「ホスト失格だな」と咲夜は呟いた。「遅れてやってくるなんて」  セーラー服はきっと琴子と同じ高校の生徒だ。時刻を確認すると待ち合わせ時間の三十分前だった。しかしこの生徒の数では、琴子の通う高校は下校の時刻を迎えているだろう。  タクシーの運転手がちらりと咲夜を見た。 「お客さん、やっぱりホストだったの? だと思ったんだよ。これから出勤かい? ……にしては、時間が中途半端だよね。お昼は過ぎてるし、まだ夕方にもなってないじゃないか」
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