劇場型神隠し

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 人口一万人の島の住民が消えたという情報を遡ってみると、一番最初のものは、 『今島(いましま)の友達と電話してたら切れちゃったんだけど。また障害でも出てる?』  というSNSの投稿だろう。金曜日の午前十一時の事だった。  今島は首都に属する島で面積は首都の二十分の一、人口は千分の一だった――佐伯は部下三名と操縦士と共にヘリを降りて緊迫した様子で深く息を吐いた。十五時に差し掛かろうという時刻に三月の日差しと海は穏やかで、無人となった今島の光景をヘリポートから見渡すだけでもその異様さを感じた。人が消えたから音も消え、自然の中に文明だけが取り残されている。 「……本当に、生存者は居るのか?」  佐伯の呆然とした呟きに、部下の中で唯一の女性である秋月が少し潜めた声で答える。 「映像にありましたから間違いないと思います。……制服を着てましたよね?」  確認し合うように会話をしなければ現実を受け止められなかった。 「中学生か高校生だろうな。スカートだったから、多分女の子だろう」 「どこから探しますか」 「とりあえず、映ってた辺りから始めて……次は学校だな」 「我々五人だけなんて……」 「良く言えば少数精鋭だ」  誰だってこんな状況に置かれたくはないだろう、という言葉を二人は飲み込んだ。  ――集団神隠しと一人の生存者。  集団神隠しだと言われた発端は、今島付近を通っていた報道ヘリが波に流されるままになっている漁船に気付いたからだった。報道ヘリは今島上空を見て回り、島民が消えているその映像をテレビやネットで速報で流した。瞬く間にネット上ではこの話題で持ち切りになった。政府によって今島は封鎖されて調査が開始されたが、前例がなく危険度も分からない状況で適切な指示が出る訳もなく、刑事部の佐伯達四人が拳銃を装備してスーツのまま――つまり普段通りの仕事の格好で今島に派遣された。生存者及び犯人を刺激してはならない、という神隠しを否定したい現場に来ない人間らしい考えの所為だった。  そして、映像が流されるのとほぼ同時にとあるSNSアカウントが投稿した事によって熱狂の渦の中心が作られた。 『私は今島の生き残りです』  そのアカウントの開設日は数年前で、今島の風景写真や学校生活に関しての投稿がされていて信憑性が高いが、アカウントの持ち主の写真は無かった――とネット上で“調査”が続けられていた。
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