劇場型神隠し

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 ヘリの操縦士と部下一名はヘリポート付近で待機しながらドローンで島全体のチェックを担当し、佐伯は部下二名と共に辺りを警戒しつつ生存者が映っていた住宅街を目指した。交差点には無人となった車が停まっていて信号待ちをしていたのだろう、車窓から中を覗き込むと助手席にバッグが置かれていた。この横断歩道を渡っている途中の人も居たかも知れない。同じ事を考えたのか、佐伯は部下二名と顔を見合わせて沈黙した後また歩を進めた。 「自分の家に行ったのか……?」  佐伯の呟きに返事をするように、一軒家のドアが開いた。佐伯達が駆け寄るとブレザーの制服を着た女の子が玄関先からこちらをじっ、と見ていた。無人島の亡霊のように感じながら、佐伯達と女の子は互いを認識した。  女の子はこの家の住人だが、やはり他の人の姿はなかった。佐伯達が名や所属を言った後、女の子に自己紹介と島民が消えた時の状況をなるべく詳しく言って欲しいという事をお願いすると、女の子は自分の家へと佐伯達を上げた。佐伯はリビングテーブルを挟んで女の子と向かい合い、秋月は廊下へのドアを開け放して率先してドアの傍に立った。取調室であれば佐伯と秋月は立場を交代しただろう。もう一人の部下は家の外で警備をしている。 「五十嵐愛理です。十六歳で、高校一年です」女の子が話し出す。許可を得てボイスレコーダーがリビングテーブルの真ん中に置かれていた。「私……教科書を見ていたんです。授業中だったので……そしたら急に先生の声が途切れて顔を上げたら、教室に誰も居なくて。……他の教室とか職員室とかも見たんですけど、やっぱり誰も居なくて……校舎から出て、それから……あっ、スマホは持ってたのでSNSとか見たけど何も起こってなくて私がおかしいのかと思ってとりあえず家に帰ろうと歩いて行きました。車が道の途中で置いたままになってて変だなって思いました。親に電話したんですけど、出なくて……私、島の外に知り合い居ないからどうしようって思ってたらヘリが飛んでてちょっと安心したんですけどすぐに居なくなっちゃって。家に帰ってから暫く待ってたらネットで“神隠し”とか言われてて、動画見たらぼやけてたけど私が小さく映ってて本当に現実なんだなって思って……SNSのアカウントで一言言っただけで何か凄いフォロワーも増えてるし…………それで、私、気付いたんです」 「……何に気付いたんでしょうか?」  尋ねられるのを待っていたような間の後に愛理は言う。 「私もあと数時間で消えるんです」
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