劇場型神隠し

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 佐伯は愛理の瞳を見ながら押し黙った。 「私、少しもおかしくなってません。信じて下さい」 「……信じますよ。現に島民も消えているんだし……ただ、君一人だけ後から消えるというのは何か特別な理由があるんでしょうか? 教室に居た時に君と他の生徒で違いがあったとか」  愛理は悲しそうな表情で小さく首を横に振った。 「違いなんかありません。私は神隠しの条件を伝える為だけに猶予を貰っただけだと思います」 「神隠しの条件とは何の事か詳しく話せますか?」 「私がこのまま消えたら島民も消えたままです。でも、島民を元に戻す方法が一つだけあります」  この言葉には佐伯だけでなく秋月も瞠目して話の続きを待った。愛理は緊張したように一つ深呼吸してから口を開いた。 「神隠しの範囲を動かすんです」 「動かす? 君が、神隠しの範囲を決められるんですか?」 「はい。――悪魔に魂を売るって言いますけど、私の場合は勝手に魂を買われたって感じがします……でも、生贄にされた女の子が起因みたいだから少しは納得も出来ます。生贄なんて可哀想だし恨んで当然ですよ……」 「……」 「私、おかしくなってませんよ」 「……神隠しの範囲を、例えば海の上に動かせば島民は戻ってくるという事ですか」 「人が住んでる場所で、今島と同じ面積に収まる首都じゃないと出来ません」 「首都で神隠しなんて起こったら大変だ」  首都に属する島で人が住んでいるのは今島だけだった。首都の、この国で一番人口密度の高い場所で神隠しが起これば一万人では済まないだろう。 「やっぱり……今島の人達が消えても誰も悲しんでくれないんですね……」  愛理はそう呟いてテーブルに置いてあったスマホの画面に視線を落とした。愛理のSNSアカウントには『一人だけ生き残って恥ずかしくねえの』『他の場所だったらもっと悲惨だったな』『自分のとこじゃなくてセーフ』『田舎者に価値なし』などのコメントが次々に送られていた。 「五十嵐さん――」 「それで、私、思い付いたんです」  佐伯はどう言葉を掛けようか迷っていたが、愛理は冷静な表情で被せるようにして続けて言った。 「今島の人達が消えた事を楽しんでる人だけを神隠ししようって」
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