劇場型神隠し

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「一回くらい首都に行けば良かったな……。今島も住所だけは首都だし良い所なんですけどね」 「五十嵐さんは今島が好きなんだね」 「好きというか、私は今島しか知らないから大切にしたいって思うんです」  愛理は気恥ずかしそうな笑みでそう言った。愛理はもうスマホをロックしていて、見られる事はないというのに愛理のSNSアカウントに酷い言葉が無意味に投稿され続けていた。何らかの意味が生じるとすれば、神隠しの範囲が移動されてそれらのアカウントの持ち主が首都に居た時だ。条件付きの神隠しの方法を分かっているのは愛理だけだが、秋月は聞き出す気にならなかった。 「余命がエモいなんて、無関係だから言える事ですね」  愛理の冷静さは性格からなのか、神隠しにより選ばれた人間だからなのか。秋月はもし自分が同じ立場に立たされた時、ましてや高校生の時分で判断など出来なかっただろうと思った。危険な現場は経験したが、それは怪我の度合いや任務の失敗を考えるものだった。得体の知れないものに存在を消滅させられる事などこの先無いだろうし、大勢を巻き込む状況も人生に一度あるかどうかだろう。 「五十嵐さん」  秋月が名を呼ぶと、少し俯いていた愛理が顔を上げて目が合った。 「私は何があっても今島の人達の味方をします」 「ありがとう、ございます……。秋月さん達が今島に来てくれて良かった。私、嬉しいです」  愛理は瞳を潤ませて、泣くのを耐えるように無理に笑みを見せた。
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