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結局父は、竜穴にまで車椅子でやってきた。ロデリックだからこそ車椅子に乗った状態の父を運ぶことができたが、普通なら崖下に落とされても文句は言えないほど難しい山道だったのだとこの男はわかっているのだろうか。
切り立った崖の下を覗けば、真っ暗な穴がぽっかりと口を開けている。その先には何も見えない。地獄の底まで繋がっているという噂は案外本当なのかもしれない。
「お父さま、まさかとは思いますが竜穴の中にゴミなんて捨ててはおりませんわよね? 深いから何を入れても問題ないなんて浅はかな考えで、お父さまならやりかねませんもの。竜穴に飛び込むのは構いませんが、ゴミまみれになるのはごめんですわ」
「本当に可愛げのない。どうしてあいつは、お前なんかを残して先に逝ってしまったんだ」
「それは、まだ子どもを産むのは難しいと言われていた年齢のお母さまに手を出したお父さまのせいでしょうね。恨むなら、ご自身の下半身の節操のなさをお恨みくださいませ」
「うるさい、黙れ! これ以上、お前とは話したくない」
「あら、奇遇ですわね。私も同じことを思っておりました」
「ええい、ふざけるなよ! 嫌われ令嬢のくせに!」
「嫌われ令嬢? いいえ、嫌われているのはお父さまのほうでしてよ。まあ、いいでしょう。そろそろ、時間です。それではお父さま、ごきげんよう」
こんな男の血が自分に流れているとは思いたくもない。屑野郎とは、今日でおさらばだ。長年考えていたことがようやく実現するのだと思うと、すがすがしい気持ちになる。私はにこやかに微笑み、周囲の人々に手を振ると勢いよく竜穴に飛び込んでみせた。
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