27人が本棚に入れています
本棚に追加
1話 兄と結婚することになりました。
「お兄ちゃんと結婚⁉」
白髪を揺らし、紫色の瞳を驚愕に見開いて、リリーは驚きの声をあげた。
まさか両親から言われると思わなかったのだ。兄と結婚しろ、だなんて。
けれど両親はリリーの驚きなどなんのそので、当然だと言うような顔で彼女を見る。
「ああ、お前ももう十七と年頃だ。ここいらで結婚しておかないと諸々支障が出るだろう」
「それに、ロジェなら私達も安心してお嫁にだせるものね」
リリーの母、アイリスの言葉に、父のトールはうんうんと頷く。
「おかしいって! だって兄妹だよ!?」
リリーは当然の反論をするが、両親はそれがどうしたと全く意に介していない様子だ。
味方のいない状況に、リリーは横にいる男を慌てて見上げた。
「お兄ちゃん! お兄ちゃんも何か言わないと! 本当に私と結婚させられちゃうよっ!」
リリーは縋りつくように兄の腕を揺する。
けれど彼は焦るリリーと違い、にこやかなほほ笑みを持って彼女のことを見た。
アイスブルーの瞳が細められ、漆黒の髪がたおやかに揺れる。彼はふわりとリリーの前に跪くと、彼女の手を恭しくとり、その手の甲に軽いキスを落とした。
そして兄――ロジェは、ぽかんとその姿をただ唖然と見つめるリリーを見上げ、こう言った。
「俺と結婚しておくれ。愛しの妹、リリー」
世の女性なら、この美しい男から結婚の申し込みを受ければ喜んで首を縦に振るだろう。
けれど、その言葉を受け取ったのはリリー・フェデーレ。ロジェ・フェデーレの妹であるのだから――。
「なんでそうなるのっ!?」
――リリーはただ、驚愕の声を出すことしか出来なかったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!