44話 兄には助けられてばかりです。

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44話 兄には助けられてばかりです。

「さあ、ついたよ」    少し開けたところでロジェがぴたりと立ち止まる。リリーはひょこりと兄の背中から顔を出した。そしてその光景に、リリーは目を見開く。   「すごい……!」    そこには、月に照らされて輝く小さな花畑があった。白い花が月の光を反射するように、ほんのりと発光しているように見える。   「綺麗……すごい、すごいよお兄ちゃん!」   「うん。喜んでもらえて良かった」    感動してはしゃぐリリーを見て、ロジェも嬉しそうにほほ笑む。  リリーは花の前にしゃがむと、そっとその小さな花弁に触れた。   「本当に、きれい……」    ほぅ、と息を吐いて、リリーは花を見つめる。   「うん……凄く、綺麗だね」    ロジェも瞳を細めてその光景を見つめる。花も勿論だが、その花をうっとりと見つめるリリーもまた、ロジェにとっては花以上に美しかった。    そうして二人はしばし花を眺め、帰る時もまた、行き同様に手を繋いでイクス達のもとへと戻った。  その帰り道、ロジェは思いだしたように告げた。   「そうだ、リリー。野宿の時も一緒に寝ようか」   「え?」   「ほら、父さん達から言われたルールに、夜は一緒に眠ること、ってあったろ? 昨日の町の宿では部屋もベッドも小さかったから難しかったけど……今日からは、また一緒に眠ってくれないかな……?」    野宿だと敷物を隣にするだけで出来るし。そう言って兄は控えめにリリーに提案する。  なんだかそんな兄が可愛く思えて、リリーはくすっと吹き出した。すると兄は不満気に眉を下げる。   「リリー……笑わなくても……」   「ごめん、ふふ、だってお兄ちゃん、何だか可愛くて」   「可愛い……」    その言葉を反芻するロジェは相変わらず困ったように眉を下げている。リリーは増々兄が可愛く思えて、繋いでいる手にきゅっと力を込めた。   「いいよ。一緒に寝よう、お兄ちゃん。きっと一人で眠るよりあったかいよ」    兄の顔を覗き込むようにして、リリーはロジェを見上げる。ロジェは数度瞳を瞬かせて、やがて少し頬を染めてほほ笑んだ。   「……ありがとう、リリー」 ***      初めての野宿は最初は怖かったし、不安だった。でもそれも、あの後兄が抱き締めるように眠ってくれたおかげで、リリーは安心して眠ることが出来たのだ。  思い起こせばこの旅の間、いつだってロジェがフォローして、リリーを助けてくれた。  旅に出る前はロジェを助けるぞ、なんて意気込んでいたのに、ここに来て振り返れば一つだって助けたことなどない。むしろ財布をスられたりと、迷惑ばかりかけているような気がした。    思い返してがっくりとリリーは落ち込む。けれど思考がマイナスになっているのに気付き、ふるふると首を振った。   「って、だめだめ! ここからなんだから! 私は私のやることをやって、お兄ちゃんを助ける! 気をしっかりもたなきゃ!」    ぱんぱん、と両頬を軽く叩き、よしっと気合いを入れる。  むしろ今からが本番なのだ。暗殺犯を探して、星詠みにも会って自分が何をしなければならないのか、見つけないといけない。  がんばるぞ、と一人奮起したところで、浴場の入り口から声がかけられた。   「リリー様、失礼してよろしいでしょうか」    それは先程ここに案内してくれた侍女の声だった。一体なんだろうか。リリーは不思議に思いながらも返事をする。   「あ、はい! どうぞっ」   「失礼いたします」    そう言って、侍女は浴場へと入ってきた。けれど入ってきたのは一人ではなかった。ぞろぞろと、五人の侍女が浴場へと入ってきて、リリーの傍に跪く。   「あ、あの……?」    困惑するリリーに、先頭の侍女が言った。   「私達、アリオス様からリリー様に良くするようにと仰せつかっております。ですので、リリー様は私達に任せて、どうぞごゆっくりなさっていて下さい」    そう言って、侍女達はリリーの返事を聞く前にすっくと立ち上がると、ぞろぞろと湯に使っているリリーの周りを取り囲んだ。そして彼女達の手が、リリーへとかかる。   「え、ちょっ……あっ! え、あ、ひゃ、ひゃああああ!」    リリーはただされるがまま、声を上げることしか出来ないのだった。
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