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46話 一人反省会をします。
「はぁ……」
風呂から上がったリリーは一人領主館の廊下を歩いていた。盛大なため息は兄のことを考えてのものだ。
リリーが石鹸を投げつけてきらい、と言った後、ロジェはそれはショックを受けた様子でふらふらと浴場から出ていった。そんな兄の様子に、リリーの胸はチクリと痛んだのだ。
ロジェが飛び込んで来たときは羞恥と怒りに任せてしまったが、よくよく考えればロジェがリリーの悲鳴を聞きつけてきたのだろうことは分かった。
そうでなければ、ロジェがリリーがされて嫌なことをするはずが無い。リリーにもそれは十分に分かっている。だからこそ、リリーは落ち込んでいた。お兄ちゃんに酷いことをしてしまった、と。
「わたしのばか……」
リリーはまた盛大なため息を吐いて、廊下の壁にこつんと自分の頭をぶつける。
これまでだって、ロジェはリリーのことを一番に考えて行動してくれていたのだ。それなのに、たった一度の失敗でリリーはロジェに石鹸をぶつけた挙げ句、嫌いとまで言ってしまったのだ。自己嫌悪の波に押し流されそうだった。
「(……この服、なんて言ってくれてたかな……)」
俯くリリーの目に、普段と違う自分の服が映る。白いワンピースは普段着ているものより軽くて涼しく、陽射しが強く暑いフェーンで最適な服だ。侍女が用意してくれたものである。
先程リリーは浴場でマッサージから始まり、蜂蜜を肌や髪に塗りたくられたり、またその上からマッサージされたり等々、様々なケアをされた。
大変だったが、おかげでこの旅で傷んでいた髪も肌も、王都から出る前と変わらぬぷるぷるさらさらに戻っている。
いつもなら、早速ロジェに見せているところだろう。それで頭を撫でてもらって、よく似合ってるよ、ときっとロジェは言ってくれる。
そのはずだったのに。
「何でこんなことに……」
じわりとリリーの目に涙が浮かぶ。
普段リリーとロジェが喧嘩することは滅多にない。いや、今回のことは喧嘩というよりリリーがロジェに対して怒っただけで、ロジェにもその原因はあるのだが。
兎にも角にも、普段こんなことがない分、リリーは落ち込んでいた。それにこの旅での不甲斐なさも相まって、余計にその気持ちは大きくて。
「う……」
ほろりと落ちる涙に、リリーは廊下の壁にもたれるようにして顔を覆った。人がいなくて良かったと思いながら、ごしごしと出てくる涙を拭う。
お兄ちゃんに嫌いって言っちゃった。怒ってるかな、悲しんでるかな。私、お兄ちゃんに助けられてばかりなのに、お兄ちゃん、私に呆れちゃったかな。
考えれば考えるほど、思考は暗くなっていく。本当は今、リリーはロジェに謝りに行く途中なのだ。イクス達の部屋にいると聞いて、正に向かっているところだった。
けれど、マイナスな思考が足を前に進ませてはくれない。
「(お兄ちゃんを傷つけちゃった)」
ほろほろと流れる涙を手で乱暴に拭った。その時だった。
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