47話 謎の人に絡まれます。

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47話 謎の人に絡まれます。

「おい、」 「ひゃっ」  目の前から聞こえた声とともに、リリーの両腕がぐっと持ち上げられる。  急に開けた視界にまず飛び込んできたのは、星のように煌めく金色の瞳だった。 「――何で泣いてんだ」  リリーの顔を見るなり金色の瞳が驚いたように瞬く。泣いているとは思わなかったのかも知れない。  だが驚いたのはリリーの方だ。突然のことに追いつかない思考を巡らせ、とりあえず自分がこんなところで泣いていたのが悪いな、と思った。  構ってほしそうに見えたか、そうでなくても泣いている人が目の前にいたら何があったか聞くのが良心だろう。自分だってもし大聖堂や家の屋敷で人が泣いていたら話しかける。 「ごめんなさい、こんなところで……。目にゴミが入っただけですから……その、離して下さい」  とはいえやり方は少々、いや、結構乱暴だ。リリーは謝りながらも警戒を顕にするように、腕にぐっと力を込めて男の拘束を解こうとする。けれど力の差は歴然で、リリーの腕を掴む手は緩みそうにない。 「目にゴミねぇ……」 「ちょっ……近っ……」  男はリリーの目を覗き込むように顔を近付けてきた。男の息がかかる距離にリリーは顔をそらす。けれど男は泣いたことで赤くなっているリリーの目尻に目を留めると、まるで慰めるかのようにちゅっと軽く唇を触れさせた。 「なっ!?」  驚き男を見上げるリリーの目に、悪巧みが成功したような、満足そうな笑みの男が映る。 「ゴミなんてないけど?」 「〜〜は、離してっ!」  これ以上は何をされるかわからない。リリーは本格的に男の拘束を解くつもりで暴れるが、男は面白そうに喉を鳴らした。 「やだね」 「え――ひょあっ!」  そしていとも簡単に、リリーを肩に担いだ。   「やだっ! 何!? 離してよっ!」    突然のことにリリーは当然混乱して慌てる。ばたばたと足を動かしたり、男の背中を叩いたりするが、男はまるでダメージを受けず、すたすたと窓に近づいた。   「まあまあお静かに」    そしてよいしょ、と窓に足をかける。リリーがいるのは領主館の二階。地面からの距離が遠すぎる、ということはないが、高台のため、ひゅうと強い風が通り抜けた。  まさか、とリリーは顔を青くする。   「え、やだ、何して……」   「口、閉じとけよ」    言うやいなや、男はぽん、と窓から飛び降りた。   「きゃあああああ!」    男に言われたことも忘れ、堪らずリリーは男にしがみついて大きな声で叫ぶ。  地面に男が着地したとき、幸い舌を噛むことはなかったが、リリーの心臓は恐怖でドキドキと早鐘を打ちっぱなしであった。  男は地面に着地すると、すたこらと坂の上へと走って行く。リリーは慌てて人を呼ぼうと声を上げようとしたが、それより早く領主館の窓がバンと音を立てて開いた。 「リリー!?」 「お兄ちゃんっ……!」    窓から顔を出したのはロジェだった。そのロジェの声は背中を向けている男にも届いたようで、一層走るスピードを上げる。  リリーは男に担がれながら窓から飛び降りるロジェを見たが、男が角を曲がったことですぐに見えなくなった。 「お兄ちゃん……」   「先に言っとくが、俺は人攫いじゃないからな。安心しろよ!」 「安心なんて、出来るわけっ……!」    走りながらちらりとリリーを振り返って言われた言葉にリリーは言い返す。今まさに連れ去られているというのに、まるで信用にならない言葉だ。  男はそりゃそうか、と笑うと、走る足をより速めた。道に詳しいのか、狭い家々の間をすいすいと走って行く。似たような白い家ばかりのためリリーにはまるでどう走っているのかわからない。  とりあえずリリーはどうにか抜け出そうともしてみるが、男が走っているためバランスが取りずらく、また何をしても抜け出せそうになかった。  けれどしばらくそうしているうちに、男が立ち止まった。
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