第6話 先輩とふたりだけの即興劇(前半)

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〈黒い生地でできたカーテンは閉められ、部屋の中は薄暗い中、部員の輪をぐるりと回りながら、先輩は遠くを悲し気に見る〉 「小国であるがゆえの出自を理由に、ドレスを破られたり、侍従はいうことを聞かず、身の回りのことは掃除なども含め、すべて自分で行い、母からもらった首飾りまで第一王子の妃に奪われてしまう始末」 〈中央に立ち尽くし、目を伏せる〉 「でもそんなエミリーに心を痛めているものがいた」 〈宇良先輩がパッと顔をあげ、稽古室の入口に顔を大きく振る〉 〈私はそこでうずくまり、両手を顔に当ててすすり泣く〉 「エミリー、ゴメンよ、キミが酷い仕打ちを受けているのに何もしてやれなくて」  エミリーと婚姻を結んだ第二王子フェリクセン。彼女が日々、床に目を向けていることをいたたまれなくなったフェリクセンは第1王子である兄へ王太子妃へ酷いことをやめるよう懇願した……しかし第1王子はフェリクセンのことがそもそも嫌いなので、エミリーにとって、さらなる地獄の始まりであった。 〈私はドアのそばへ駆け寄り、ドアを見つめ、皆へ背を向ける〉 「エミリーが、自室にこもりがちになってしまい、数か月、彼女に転機が訪れる」 〈宇良先輩は、部員の輪の真ん中で膝をつき、あたかも誰かの手を握る仕草をみせる〉 「父上、どうか病魔に負けませぬよう」  王は病の床に伏しており、フェリクセンがその身を労わり励ますが、この国の王の命は幾許(いくばく)も残されいないのは火を見るよりも明らか。  痩せこけ(しわが)れた声で王は呟いた。  この世のものとは思えぬような美しい歌声を聴きたい、と。
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