第11話 紛失

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第11話 紛失

 休日が明けて、月曜日。  今日から、7月第3週、終業式の1日前に行われる3年生最後の晴れ舞台、「校内演劇鑑賞会」に向けて、ミーティングが始まった。    脚本はすでに3年生が準備していて、演劇鑑賞会当日までのスケジュールと役が発表されていく。  私たち1年はセリフもない端役か黒衣(くろこ)。    演題は「シラクスの町より愛を込めて」。  あの文豪太宰治の名作「走れメロス」に登場する主人公メロスのその後を描いた恋愛物語。  親友セリヌンティウスとともシラクスの町の暴君ディオニス王を改心させ、町に平和が訪れたが、今度はディオニス王がメロスに婚姻を求める。相手はディオニス王の姪で名は「キアナ」。彼女と結婚すれば地方の領主になれる。しかしメロスはそれは本当の愛ではないとディオニス王を説く。  それを聞いたディオニス王は、再びメロスに試練を与えた。試練の内容は「本当の愛」を王にみせること。  猶予は3日間。あまりにも短い期間だが、メロスには気になる女性がいた。  日没前、親友セリヌンティウスの処刑が回避されたあと、歓声が沸き起こった群衆の中からひとり進み出てメロスに緋色のマントを着せてくれた少女。
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