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友だちが誰もいない中高生時代を経て晴れてエミカは徳丸文化大学美術史学科に合格した。読書の甲斐あって成績は悪くない。毎年50人しか入学できないのでFラン大に限りなく近いといわれる丸文の中で一番偏差値が高い。
入学式を無事に済ませたエミカだが翌日にはもう奇行が始まった。
入学したばかりの男子学生は一人でカフェテリアを利用し、ドリンクの自販機の前で商品を選んでいた。
「ねえ、ジュースちょうだい」
唐突にエミカは学生に声をかけた。
何か?と怪訝に学生は顔を向けた。
「エミカちゃん、りんごジュースがいいな」
「誰?」
彼は冷たかった。
「エミカちゃん、自己紹介!」
手をたたくと、どや顔でエミカは話を続けた。
「エミカちゃん、本名は本郷恵美香。東京都池袋出身。美術史学科の一年生。カワイイの、よろしくね」
その間に学生は立ち去っていた。
「あ、あれ?エミカちゃんのジュースぅ」
むなしく声が響き冷笑する者もいたが、エミカは懲りなかった。
「ねえ、ジュースおごって」
また、別の男子学生に声をかける。男がスルーして、カップにドリンクを注ぐ自販機にコインを入れると、エミカは手を伸ばして取り口でカップを取り、素早く立ち去ろうとした。
「何するんだ」
取り返そうとする手を払うとエミカは一気に飲み干した。
「ごちそうさまー」
「待てよ、待てよ。返せよ、金払え」
「またねー」
男はエミカの腕をつかんだ。
「はなして、痴漢!」
「ふざけんな!泥棒!」
「どうしたんですか」
カフェでコーヒーを飲んでいた学生課職員の伊丹悦子が声をかけた。
「俺のドリンク、パクりやがって」
「おごってもらったんだもーん」
エミカは脱走した。
男は状況を説明した。
「オレンジのワンピースの眼鏡の子ね」
伊丹は入り口の方を見つめた。
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