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外へ出ると庭には学内のサークルが多数机を並べて新入生の勧誘を始めていた。エミカはアニメキャラのTシャツを着ている女性に気づくと声を発した。
「恥ずかしいからやめろおぉぉー」
あたりにエミカの声が響き渡った。マンガ研究会のメンバーが固まった。
「人前でそんな格好して、やめてくれる」
「うちは漫研です。何が悪いんですか」
ベリーショートヘアにロックTシャツを着ている部長の高岡渚が強い口調で応じた。キャラTの部員は下を向いてしまった。そこに集まった多くの学生たちも聞き耳を立てている。全く似合っていないオレンジの花柄ワンピース姿のエミカは人目をひいた。
「エミカちゃんが恥ずかしくなるからやめて」
「エミカちゃんてどなたですか。何か御迷惑おかけしてます?」
「だって…恥ずかしいんだもん…」
エミカも下を向いて机の上にある漫研の会誌を見た。視線を向けたらもうエミカは読まずにいられない。
「お帰りいただけますか」
渚はかなり怒っているが会誌を読み出したエミカの耳には入らない。渚たちは30分間苦行のような状態で立ち尽くす形になった。読み終わるとエミカはようやく何事もなかったように去っていった。
それだけでは終わらなかった。翌日漫研の部室にエミカが勝手に入って来た。部員が一人だけ来ていた。
「新入部員の方ですか?」
声をかけるがエミカは本棚をじっと見つめた。代々の部員が寄贈したコミックが並んでいる。エミカはようやく一冊取り出すと席に堂々と座り込み読み出した。部員はあっけにとられて何も言えないままだ。
やがて高岡渚ら数人が部室に入って来た。渚はすぐに察した。
「勝手に入ってこないでください。どなたですか。」
もちろんエミカは回りの状況を理解できない。コミックをじっと見続けて頁をめくっている。短期な渚はぶちギレた。
「みんな、引きずって追い出そう」
「了解!」
まず本を取り上げエミカが奇声を上げたのはまたもやだ。
「せーのっ」
椅子を引っ張り身体を数人がかりで引っ張る。
「ぎゃー、ぎゃー」
「ぅるせえんだよ」
渚は容赦ない。エミカの身体を外へ出すと廊下に放り投げトートバッグをエミカの頭に向けて投げた。
「ひでぶ!」
エミカは座り込んだ。
「歓迎してくれると思ったのに。エミカちゃんはカワイイから。絵もとっても上手いの」
「おととい来やがれ。オレンジどろぼー」
渚は下町っ子だ。
「ひっ」
何で自分がそんなことを言われるのかエミカはさっぱりわからない。こづかいのないエミカは無料で本を読みたいだけなのだ。あと、おやつもタダで欲しい。お昼代としてもらえる五百円はBランチを食べるとすっからかんになる。ジュースが飲みたい、お菓子が食べたい。人から貰うしかない。
漫研にくれば誰かがお菓子を持って来ていて本も読めると思っただけなのだ。
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