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「風呂上りは暑いんだ」
「エアコン、入れてるでしょう!?」
「細かいことにうるさいぞ、千尋。男同士なんだから、別に構わんだろう」
確かに弦と千尋は男同士であり、しかも幼馴染である。
別に、すっぽんぽんを見ようが見られようが、構わないと言えば構わない。
それでも小学生の頃から、親兄弟の裸も見なくなった千尋だ。
恥ずかしいものは、恥ずかしい。
いいかげん慣れろ、と弦は言うが、こればかりは慣れそうにもないのだ。
(せっかく、憧れの弦先輩と一緒に暮らせるようになったのに!)
千尋は悔しく、悲しく、情けなかった。
幼い頃から、千尋と共に育ってきた、弦。
千尋は弦を、凛々しく、正しく、礼節を守る、立派な人物と思っていた。
泣き虫で、いじめられていた僕。
小柄で、髪を肩まで伸ばしていたせいで、女みたいだとバカにされていた。
二つ年上の弦兄ちゃんは、そんな僕をいつも助けてくれた。
一緒に遊んだり、宿題を見てくれたり、守ってくれたりもした。
それが、一つ屋根の下で暮らすようになってから、音を立てて崩れていく。
今まで見えなかった負の部分が、どうしても目に入る。
しかし、それが人間というものだろう。
逆に、弦がいつまでも立派過ぎる男だったら、不自然だ。
千尋は、飾り気のない家族のような存在の弦を、喜ぶべきだろう。
だがしかし。
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