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体のいい言葉を並べられている、と頭ではぼんやりわかっているはずなのに、それに悪い気はしていないくて、むしろ嬉しい気持ちさえ見え隠れしている。誰かに認められていることに浮かれる心情を弄ばれて、甘い蜜にほいほい誘われそうになっていることに情けなくもあり、抵抗できない自分がいる。
「それが僕だと?」
これ以上深堀してはいけないとわかっていながらも聞いてしまう。自己肯定されればされるほど、思っていることと違う返答をしてしまうから。
「そう。伊風の顔を見てれば誰でもわかる。リクくんを心から信頼しているんだって。私もそう」
「……でも」
「せめて姉弟だと知られるまでは、仲の良い友達でいたいの。でも伊風は無邪気に私に好意を寄せてくる。繋がった血の当り前な相性を運命を誤認して」
「そん……な」
そんなことがあるのだろうか。
「お願い、協力して」
そんなことが、あるのだろうか。
「……わかった」
首を縦に振ると、冴空は嬉しそうに距離を詰めてきて、僕の手を取る。そして、
「ありがとう」
なんて笑顔を振りまいて、僕を惑わせてくる。
「リクくんが友達で本当によかった」
そんなことを言われてしまえば、僕の心には一層罪悪感が増してしまう。
僕が伊風と一緒にいる理由は、冴空を諦めるためだと、本人は当たり前のように知らない。
僕は本当は、冴空のことが好きなのだ。
でも、冴空は傍から見ていると、伊風のことが好きのように思えていた。
伊風も冴空のことが好きで。
両想いの間に入れるほど僕はデキるやつじゃない。
だからと言い訳をして、気持ちにフタをして諦めていた。
「じゃあ後で連絡するから」
でも、違った。
もしかすると、僕の気持ちは報われるのかもしれない。
友達を騙さなければならない後ろめたさと、諦めていた恋に可能性を感じる喜びが混在して、もうよくわからなくなる。
「ごめんねありがとほんとごめんね」
冴空が早口でそう言ってきたような気がした。もう校舎の方に振り向いて歩き始めていたタイミングだから、本当にそう言っていたのかはもう判断できなかった。
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