「私と伊風は、生き別れの姉弟なの」

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「私と伊風は、生き別れの姉弟なの」

「私と伊風は、生き別れの姉弟なの」  伊風(いふ)が計20回目の告白に失敗した日の放課後、僕はその相手である冴空(さく)に呼び出されていた。  陽が校舎の反対側を照らしていて僕たちのいる教室は薄暗く、もう6月だというのにちょっぴり肌寒い。冬服から夏服への移行期間として、どちらでも可と学校側から緩和されているが、夏服はまだ早かったなと思いながら肘をさする。ひゅっと風が吹いて僕の首筋を撫でるように抜けていった。 「あ、そう」  反応に困るカミングアウトに淡泊に答えてしまう。  生き別れ? きょうだい?   現実味を帯びるまではもう少し事情を把握する必要があるけれど、それをどこまで聞いていいのかの迷いが、口を重くする。 「だから、協力してほしい」 「協力?」  オウム返しでどんどん内容を引き出そうとする。その引き出た情報を元にしながら、一度冷静になろうと試みる。 「そ。伊風が私のことを嫌いになるように、協力してほしいの」  淡々と告げられた内容に振り落とされないよう掴もうとして、空を切る。「……は?」と空気を吐き出すも同然の声量で届いたかどうかも怪しい。  伊風が冴空のことを嫌いになるように、協力? 「なんで?」  なんで僕が、と初めに思った。伊風と僕は友達だ。伊風を裏切るような行為を進んでするはずはない。 「リクくんにしか頼めないことだから」  僕の性格が多少捻くれていて、人を簡単に裏切りそうな印象を抱かれているのは仕方がない。日頃の行いは褒められたものではないのは事実だ。 「それに、この秘密を知っているのはリクくんだけだから」  こんな逃げ道を塞ぐような、半強制の、脅迫じみた告白を一方的にするのは卑怯だ。 「なんで……」 「なんで?」  今度は向こうからオウム返しで聞かれる。僕自身、なんでに続く言葉なんて何もない。ただ口をつい出ただけで、また一方的に僕が不利になるようなことを言われるのを防ぎたかったためだ。けれども、冴空は僕からの返答を待つように黙ったままで、気まずい沈黙も平然として待っている。 「なんで……僕に言ったんだよ」  そして初めの疑問に戻る。それ以外聞くことが思いつかず、頭が真っ白になっている。適当につなぐ言葉さえも引っ込んでしまっていた。 「一つは保険。伊風がもし知ってしまった時にフォローを入れられる近しい適任が必要だから」 「保険……」 「もう一つは信頼。誰にでも言うような人は問題外で、良識があってある程度信頼における関係が私とあることが条件だった」 「信頼……」
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