山本冴子の秘密

2/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
今日は木曜日。 平日にも関わらず急遽ご指名が入り、占いの館へ行くことになった。 退社後の出勤は結構辛い。 断ってもいいのだが、この日はちょっと稼ぎたいと思ってしまった。 「今日だけ現金で頂戴。後、明日は絶対に無理だから、指名が入っても断ります」 「分かりました。ありがとうございます」 経営者は、私の条件をあっさりのんでくれた。 占いの館に到着した私は着替えを終えて、占い師マリアとなる。 指名が入ったお客様二人を占い、山本冴子に戻ろうとした時、経営者が私を止めた。 「マリアさん、あと一人お願いします」 「えー、もう帰ろうとしたのに。それに今日は木曜日だよ。いい加減にしてよ」 「すいません、急遽一人カード占い希望が入りまして。若い男性ですよ、少しはずみますから」 『出た、経営者からの若い男性発言。口説き文句になってるじゃない』 私は心の中でそう思うけど、若い男性と言う言葉にちょっと弱い。 「仕方ないわね、ちょっと顔を見るだけよ」 「ありがとうございます。どうぞ、こちらから」 私は経営者に促され、向こうからは見えないガラス板を通して、客の顔をそっと見る。 その瞬間、胸がドキッとした。 『佐伯くん』 心の声がそう叫ぶ。 彼の名前は佐伯慎也。 私が働いている会社の新入社員で、気に入っている可愛い男の子だ。 『どうしてここに』と思ったが、あまりの嬉しさに私は占いを引き受けることにした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!