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今日は木曜日。
平日にも関わらず急遽ご指名が入り、占いの館へ行くことになった。
退社後の出勤は結構辛い。
断ってもいいのだが、この日はちょっと稼ぎたいと思ってしまった。
「今日だけ現金で頂戴。後、明日は絶対に無理だから、指名が入っても断ります」
「分かりました。ありがとうございます」
経営者は、私の条件をあっさりのんでくれた。
占いの館に到着した私は着替えを終えて、占い師マリアとなる。
指名が入ったお客様二人を占い、山本冴子に戻ろうとした時、経営者が私を止めた。
「マリアさん、あと一人お願いします」
「えー、もう帰ろうとしたのに。それに今日は木曜日だよ。いい加減にしてよ」
「すいません、急遽一人カード占い希望が入りまして。若い男性ですよ、少しはずみますから」
『出た、経営者からの若い男性発言。口説き文句になってるじゃない』
私は心の中でそう思うけど、若い男性と言う言葉にちょっと弱い。
「仕方ないわね、ちょっと顔を見るだけよ」
「ありがとうございます。どうぞ、こちらから」
私は経営者に促され、向こうからは見えないガラス板を通して、客の顔をそっと見る。
その瞬間、胸がドキッとした。
『佐伯くん』
心の声がそう叫ぶ。
彼の名前は佐伯慎也。
私が働いている会社の新入社員で、気に入っている可愛い男の子だ。
『どうしてここに』と思ったが、あまりの嬉しさに私は占いを引き受けることにした。
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