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本日の業務が無事に終わる。
みんなが定時で帰っていくなか、佐伯くんだけがフロアーに残っていた。
こんな雰囲気になれるなんて、今日は本当についている。
『もう少し一緒にいたいな』
そう思い、私は残業してるふりをする。
「お疲れ様です」
『彼から話してくれた。なんて積極的なんだ』と思いつつも、私はときめきたい気持ちを我慢する。
「お疲れ様、頑張ってたね」
「はい、山本さんのおかげです。ありがとうございます」
「それじゃ、私達も帰りましょうか」
「山本さん、今日って予定ありますか?」
『えっ、これってお誘い?空いてると言いたい。けど今日は……』
私はイエスと言いたいのを我慢する。
「ごめんなさい。私このあと予定があるんだ。また今度でいい?」
「あっ、いいんです。ちょっと訊いてみただけですから、お先に失礼します」
佐伯くんはそう言って、フロアーから出ていった。
私だけがフロアーに残る。
「あぁ、今日の合コン断れば良かった」
そう言って、私は頭を抱えた。
「合コンがなければ、佐伯くんと一緒に食事できたのに。まさか佐伯くんから誘ってくれるとは思わなかったな」
私は悔しくてたまらなかった。
けど嬉しくもあった。
「びっくりしたけど、佐伯くんの気持ちが分かっただけでも良しとしなきゃ。佐伯くん本当に可愛いんだから」
私は一人ぼっちになったフロアーで、ニコニコと笑っていた。
「こんなところ誰かに見られたら恥ずかしいわ、さぁ合コンの準備をしなくちゃ」
私はお手洗いに向かい、メイクを整え、服装に汚れがないかチェックする。
「準備オッケー。このメイクセットいいわ、少し高かったけど買って正解。昨日だけ現金でもらって良かった」
そう呟いた瞬間、バッグから音がする。
スマートフォンの着信音だ。
私はバッグからスマートフォンを取り出す。
「もしもし」
「あっマリアさん、占いの館です。さっきマリアさんに指名が入ったのですが、急遽出れそうですか?」
「だめだめ、今日は大切な予定があるから出れないわ。昨日も言ったでしょ、断っといて。明日は出るから」
「分かりました。ありがとうございます」
私はスマートフォンをバッグに閉まって、ハァーとため息をつく。
昨日、佐伯くんに出会ったことを思い出す。
「佐伯くんにはちょっといじわるしすぎたかな、けどそれで佐伯くんと話しできたからオッケー」
会社を出た私は、大きく深呼吸をする。
空には、占いの館でめくったカードと同じような月がきれいに見えている。
『佐伯くんの前で本当の事を話したい』と心の中で思ってしまった。
「占いの結果に嘘をついたのは正解だったかな、佐伯くん今度はどう誘ってくれるかな、楽しみ楽しみ」
そう呟きながら、私は合コン会場へと向かった。
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