山本冴子の秘密

7/7
前へ
/7ページ
次へ
本日の業務が無事に終わる。 みんなが定時で帰っていくなか、佐伯くんだけがフロアーに残っていた。 こんな雰囲気になれるなんて、今日は本当についている。 『もう少し一緒にいたいな』 そう思い、私は残業してるふりをする。 「お疲れ様です」 『彼から話してくれた。なんて積極的なんだ』と思いつつも、私はときめきたい気持ちを我慢する。 「お疲れ様、頑張ってたね」 「はい、山本さんのおかげです。ありがとうございます」 「それじゃ、私達も帰りましょうか」 「山本さん、今日って予定ありますか?」 『えっ、これってお誘い?空いてると言いたい。けど今日は……』 私はイエスと言いたいのを我慢する。 「ごめんなさい。私このあと予定があるんだ。また今度でいい?」 「あっ、いいんです。ちょっと訊いてみただけですから、お先に失礼します」 佐伯くんはそう言って、フロアーから出ていった。 私だけがフロアーに残る。 「あぁ、今日の合コン断れば良かった」 そう言って、私は頭を抱えた。 「合コンがなければ、佐伯くんと一緒に食事できたのに。まさか佐伯くんから誘ってくれるとは思わなかったな」 私は悔しくてたまらなかった。 けど嬉しくもあった。 「びっくりしたけど、佐伯くんの気持ちが分かっただけでも良しとしなきゃ。佐伯くん本当に可愛いんだから」 私は一人ぼっちになったフロアーで、ニコニコと笑っていた。 「こんなところ誰かに見られたら恥ずかしいわ、さぁ合コンの準備をしなくちゃ」 私はお手洗いに向かい、メイクを整え、服装に汚れがないかチェックする。 「準備オッケー。このメイクセットいいわ、少し高かったけど買って正解。昨日だけ現金でもらって良かった」 そう呟いた瞬間、バッグから音がする。 スマートフォンの着信音だ。 私はバッグからスマートフォンを取り出す。 「もしもし」 「あっマリアさん、占いの館です。さっきマリアさんに指名が入ったのですが、急遽出れそうですか?」 「だめだめ、今日は大切な予定があるから出れないわ。昨日も言ったでしょ、断っといて。明日は出るから」 「分かりました。ありがとうございます」 私はスマートフォンをバッグに閉まって、ハァーとため息をつく。 昨日、佐伯くんに出会ったことを思い出す。 「佐伯くんにはちょっといじわるしすぎたかな、けどそれで佐伯くんと話しできたからオッケー」 会社を出た私は、大きく深呼吸をする。 空には、占いの館でめくったカードと同じような月がきれいに見えている。 『佐伯くんの前で本当の事を話したい』と心の中で思ってしまった。 「占いの結果に嘘をついたのは正解だったかな、佐伯くん今度はどう誘ってくれるかな、楽しみ楽しみ」 そう呟きながら、私は合コン会場へと向かった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加