僕とは違う君が好き

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 ***  この世界には、二種類の植物がいる。  雑草か、そうじゃない花か、だ。  雑草ではない花たちは人間に守られ、大切にされる。でも、私のような雑草は違う。頑張って大輪の花を咲かせていても、私を見てとアピールして花を揺らしていても、人間達は見向きもしてくれない。  むしろ、変なところに咲いていると“邪魔くせえな”と睨まれて邪見にされることも少なくない。どうしてだろう。私も植物で自慢じゃないけれどこんなに綺麗な花を咲かせるのに。どうして、桜のようにみんなに愛して貰えないのだろう。  私がニンゲンのことを好きになれない理由の一つ。それは、明朗快活で心優しい友人を、桜の彼のことを嫌いになってしまいそうになるからだ。  特にお花見の時期はそう。 「わあ、すごく綺麗な桜!」  三月下旬。  桜の彼を目当てに、多くの見物客が訪れる。今、お花見に来ているのは家族連れだった。お父さんとお母さん、高校生くらいの姉妹に幼稚園生くらいの小さな男の子が一人の五人家族。少子高齢化の日本の中では、十分子だくさんの部類になるだろう。  今歓声を上げたのは、高校生の長女だった。 「今年はいつもより咲くの早いね!きっれー!」 「お姉ちゃん、花びらくっついてるよ」 「あ、ほんとだ。うーんこれも雅じゃない?」 「お姉ちゃん、雅って言葉わかってんの?」  きゃいきゃいと黄色い声ではしゃぐ姉妹。彼女らを見て、お父さんがカメラを構えた。 「母さんとりっくんも一緒にそこに立ってくれ。写真撮るぞ、写真!」 「はあい!」  多分、仲の良い家族なのだろう。お父さんの一言で、母と姉妹と弟がそろって彼の前に立った。桜の木も、自分が注目されている自覚があるからだろう。心なしかシャンと枝を張ってアピールしているように思う。 「あ、もう少し、もう少し真ん中に寄って。……エミ、顔の前でピースはやめなさい。せっかくの可愛い顔が隠れちゃったらもったいない」 「もーお父さんってばー」  笑う次女が一歩後ろに下がった。足元で精いっぱい咲いている私には見向きもしない。 ――ねえ、お願いよ。桜さんも綺麗だけど、私のことも見てよ。こんなに一生懸命咲いてるのに……!  訴えても、私達植物の声は聞こえない。聞こえないと知っていても声を上げずにはいられなかった。  彼女がさらに後ろに下がってくる。嫌な予感がした、次の瞬間。 「ぎゃあああああああああ!」  衝撃が来た。花の上から、思い切り少女の靴に踏みつけられたのだ。 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!お願い、靴をどけて、お願いよ!」  叫んでも、泣いても、誰も助けてくれない。桜さんがおろおろしているのがわかったが、彼は人間の前では派手に動けないと知っている。  次女に、悪気はなかっただろう。彼女は本当に、私がここにいると知らなかっただけ。そんなことはわかっている、でも。 ――なんで?  お花見の時期は、特に惨めな気持ちになる。  桜はこんなに愛され、注目されるのに――どうして私達は、こんな風に踏みつけられなければいけないのだろう。  一番嫌なのは、こういうことがあるたびに、友人に嫉妬してしまう自分自身だ。 ――私だって、愛されたい!  人間達は、そんな私を踏みつけにしたまま、笑顔で写真を撮り続けている。
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