僕とは違う君が好き

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 *** 「蒲公英さん、蒲公英さん、大丈夫!?」 「……ええ」  家族連れが去った後、会社の忘年会らしき集団が傍にビニールシートを敷いて宴会を始めた。幸い私はシートの下にならずに済んだし、集団が騒いでいる間は他の花見客が写真を撮ろうとして私を踏むこともないだろう。 「痛かったわ」  私は半泣きになりながら、桜に訴えかけた。 「桜さん、私……私、お花見が好きになれないし、人間達のことは嫌いよ。桜さんが注目されるのは素敵なことだけれど、私……そのたびに嫉妬して、醜い自分を自覚させられるの。どうして人間達は、私達にはまったく気づいてくれないの。私達を愛してくれないのって。私も……私も桜さんになれたらどんなにか!」 「蒲公英さん……」  桜は悲しそうに枝を下げて言った。 「……確かに、人間は勝手なところもあるよね。言いたいことは、わかるよ」  彼はちらり、と宴会する大人達を見た。 「例えばさ、お花見は僕達桜にとって一大イベントだけれど……そのたび、結構大変なこともあるんだ。例えば、僕達の周辺にゴミをまき散らしていく人がいる、とかさ。お酒を飲んで暴れる人もいる。マナーを守らない人がいると、そのたびにうんざりさせられるんだよ」 「それは確かに、そうね」 「それだけじゃない。君は僕を羨ましいと言うけれど、僕達桜だって年がら年中人間に愛されてるわけじゃないんだ。葉が増えてくると、“地味でつまらない”と急に見向きもされなくなる。そして時期によっては、毛虫が多くて嫌な木だと邪見にされることも少なくないんだよ、知ってた?」 「え」  それは、知らなかった。  桜の木は、この国の人にとってアイドルのようなものだと思っていたのに。 「人間は、勝手だよね。嫌いと言ったクチで好きだとのたまったりする。写真を撮って愛でるのに、力任せに蹴りつけるようなこともする。嫌だなって思うことも多いよ。人間の全てを好きな植物なんて誰もいないだろうさ」  でもね、と彼は続ける。 「散らかされたゴミを拾って綺麗にしてくれるのも人間で、僕達が倒れないように支えを作ってくれたり、病気をチェックして守ってくれるのも人間なんだ。……僕達桜は、人間に助けられてここにいる。僕はその事実をよく知ってる。だから本当は……お花見っていうのは、僕にとってその報恩でもあるんだ。君達のおかげでこんなに綺麗に咲けたんだよって。僕達を見て、人間達が少しでも楽しい気持ちになってくれたら、こんなに嬉しいことはない。そうだろう?」  知らなかった。桜が、こんなことを考えていただなんて。  花見は、報恩。  身勝手だと腹が立つことがあっても、それでも彼が毎年見事な花を咲かせて人々を楽しませるのは、そういう理由があったのかと。 「それとね。君は僕に嫉妬するというけど……僕だって蒲公英さん、あなたに嫉妬することがあるんだよ」 「え、えええ!?なんで、あなたが!?私のような雑草に!?」 「雑草なんて言わないで。あなたは、とても魅力的な花さ」
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