僕とは違う君が好き

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 ふわり、と桜の花弁が私の上に落ちてきた。まるで頭を撫でるように、黄色い花の上に舞い降りる。  そう、まるでお姫様の冠のように。 「知ってるかい?君達蒲公英はすべての植物の中においても王様のような存在だということを。僕は君ほど進化した植物を知らないよ」  嬉しそうに、彼は花びらを散らした。 「君達はものすごく深くまで根っこを張る。上の花や茎がいくら傷つこうと、根が無事ならば復活できるんだ。悪意のある輩が君達を引っこ抜いてやろうとしても、深く根差した根を全て抜くのは簡単なことじゃない。そもそも、花や茎だって多少踏まれたくらいじゃへこたれないくらい丈夫だ。寿命だってとても長い。一年二年で枯れてしまう植物がたくさんいる中、君は何年だって生きるじゃないか」 「そ、それはそうだけど……」 「特に僕が一番感心するのは、子孫を残すシステムさ。君達は小さな綿毛を飛ばして、多くの植物よりずっとずっと遠くまで飛んでいける。他の動物の手を借りる必要さえない。一人でも力強く生きられる、コンクリートの隙間でさえ!こんなに強くてかっこいい花、僕は他に知らないよ!」 「そ、そうかしら……」  なんだか、花びらが熱くなってきた。まさか自分のことを、憧れの桜がそんな風に思ってくれていたなんて。 「そうとも、君はもっともっと自分を誇るべきだ」  桜は力強く言った。 「僕達桜は、人間の手を借りないと長生きが難しい。でも君達はそうじゃない。……人間達だっていろんな人がいる。必ず、君の魅力に気づいてくれる人がいるはずさ。少なくとも、僕は君の凄さをちゃんと知ってるんだからね」 「桜さん……」  自分には、自分の凄いところがある。踏まれたことを嘆くだけではなく、踏まれても折れない己を誇る自分であっていいのだと。  蒲公英は夜露のような涙をこぼして、桜に言ったのだった。 「ありがとう。……本当にありがとう、桜さん。私……もっと、自分のことが好きになれそうだわ」  そう。  桜のように目立つ花ではないけれど、私達だって一生懸命生きている。その生き方に、もっともっと胸を張っていいのだ。植物だけじゃない、虫だって、他の動物だって、人間だってそうなのだろう。  頑張り続けたことは無駄なんかじゃない。必ず、必ず誰かがその努力を見てくれる。諦めずに立ち向かい続ければ、願った栄光にきっといつか届く。何故なら、諦めない者にはけして敗北なんてないのだから。 「あ、見て、お母さん!蒲公英!」 「あら、蒲公英?桜じゃなくて蒲公英が好きなの?」 「うん!」  数日後。  お花見に来た母親と子供。小さな男の子が、そっと私の前にしゃがんで言ったのだった。 「桜も好きだけど、蒲公英はもーっと好き!だって、かっこいいんだもん!」  その小さな賛辞に。私はそっと、花びらを揺らして答えたのだった。
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