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その後。
楓と深町と加納は、示し合わせたわけではないが、古谷真のヴァーチャルな”レプリカント”については、実験場スタッフ、捜査関係者のいずれにも黙っていた。
その実、あの時、あの部屋で見た”古谷真”が、妙な言い方だがホンモノの仮想現実であるとは言い切れない。むしろ、あの遺体ではないほうの”古谷”が別の場所で応答していただけ、という方が現実味があるし、否定材料もない。
それだけに、言ったところで信じられる話でもないというのもあったが、何より、たぶん探されたくなかったのだ。
彼女たちを。
実験事故の方は、純粋な事故だという結論が早々に出た。古谷家の事件の方も無関係と判断された楓は、予定より2日遅れて北の街を離れた。
駅では深町も見送ってくれた。
あの分厚い手のひらと握手し、無言で別れた。いつか、彼が指揮するチームのプレイを見ようと心に決めて、楓はまたリゾートの名を冠する快速列車に乗った。
海岸線沿いに林立する風車を数えながら、薄縹の空に舞った風花を思い出している。
美しい宙だった。
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