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また事件から暫くして、加納から絵ハガキが届いた。
古風だったが、今回の場合はとてもあるべきルートな気がした。あの街の松林と、海岸線に林立する風車と、無事だった実験場が写っている。
「実験施設の再建は来年になりそうですが、なんとか皆やっています」
とあった。
折りを見て、深町のバスケ部の応援にも行っているらしい。加納とバスケの取り合わせはピンとこなかったが、人生、新しい出会いはいいことだ。
若者の人生に幸あれ。
楓は瞳を閉じて、そっと祈る。
白い巨人のような風車と、
薄く雲を刷いた浅葱色の空の下、海が見えた。
「あのさ、山科、ヒトはどこまでがヒトなんだと思う?」
かつての彼女は、そう言って笑った。
陽の光に、ショートカットの黒髪が翻ったのを、楓はまだ覚えている。
冬の日本海、
鈍色の海と淡雪のような白波が、寄せては返す、静寂のように。
そうして、
白くて黒くて小さくて美しい少女が、凍える海の底に沈んでいる。
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