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「ふぅん? キミが誰かに興味を持つなんて、珍しいよね」
「そうですね。父上の気持ちが、少し分かった気がします」
嫌味のつもりで告げてみれば、再び鼻で笑い飛ばされる。
「僕と辰巳の事を言っているのなら、それこそ殺すよ?」
「……まあ、父上の愛情には及びませんよね…」
「当然だね」
本気なのか演技なのか分からない声で応えたフレデリックは、あっという間にケーキを平らげていた。
「ご馳走様。ケーキに免じて、今日はこの辺で帰ってあげるよ」
「ついでに伺いますが、俺とロランがもし付き合うと言ったら、父上はやはり反対するのかな」
「どうして僕が反対するの?」
「え?」
意外な返答に、ガブリエルは間の抜けた声を出した。
「シルヴァンから、話を聞いたけれど……」
「ああ。あれは別に、反対してた訳じゃないからねぇ」
「違うんですか?」
「ただ、クリスがウィルと遊びたかっただけじゃない?」
あっさりとそう言って、フレデリックは部屋を出て行こうとした。玄関へと出送りに出たガブリエルを振り返る、その顔がおかしそうに笑っていた。
「まあ、キミがどうしても僕に遊んで欲しいと泣いて頼むなら、手合わせくらいはしてあげるよ?」
「ッ……!」
「じゃあね。せいぜい頑張ってロランを落としておいで」
ひらひらと手を振って、フレデリックは出て行った。閉まったドアを、呆然と見遣る。
――手合わせって、本気か?
言い方は気に入らないが、紛れもない期待が胸に湧き上がるのをガブリエルは感じていた。
フレデリックは遊びの喧嘩をしない。それは、日本でガブリエルが色々と教わっていた時からそうだった。
手合わせはもっぱら、一哉というひとつ年下の日本人で、フレデリックと直に向き合った事は一度もない。
――これは、何が何でもロランを連れてこないとな。
動機が不純である事は否定出来ないが、フレデリックとのフリーファイトを逃す選択肢はない。ガブリエルが俄然やる気を出した事は言うまでもなかった。
◇ ◇ ◇
翌日、午前中のうちに所用を片付けたガブリエルは、昨日立ち寄ったばかりのカフェへと足を運んだ。午後のティータイムにはもってこいの時間だというのに、今日も運よく他に客はいなかった。
少々経営状況が心配になるところだが、マスターが情報屋であることを考えれば、カフェにいくら客が来なくとも店が潰れることはないだろう。
「やあマスター。その後、何か分かった事はある?」
「気が早いですね」
「それだけ、重要な案件だってことだよ」
それで進捗はどうなのだと視線で訴えれば、マスターはカウンターの下から紙のファイルを取り出して寄越した。
「そこまでは、まぁある程度の知識があれば拾える情報です。それ以上となると、もう少し時間が必要かな」
「ふぅん? これは、前金のうち? それとも情報料を払おうか?」
「コーヒーでも飲んでいってくれたら結構ですよ。前金でも十分なくらいです」
「相変わらず欲がないね」
「この商売で欲を出しても、ロクな事になりませんからね」
「ごもっとも」
情報に見合わない報酬を要求したばかりに、金では買えないものを失った者は多くいる。
いつものコーヒーを頼み、ガブリエルはボックス席に陣取った。早速ファイルの中身を確認する。
――両親は他界……まぁそうだよね。
ロランの年齢を思えば両親が既に他界していてもおかしくはない。他に家族もなく、どうやらロランはあの家に一人で暮らしているようだった。
――本当に、ヴァレリーから逃げるためにファミリーになったのか?
手に入れたばかりの情報へと目を通していれば、意外な事実がガブリエルの目を引いた。
――神学校卒で、司祭?
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