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人生は小説の下書きのように書いたり消したりできないのか。そう思いながら、笠間良平は手のひらに溜まった汗をズボンで拭き再びペンを握る。
好きだった女の子がいた。名前は美咲、歳は17で高校二年生だ。髪は茶髪で目の色とほぼ同じだ。彼女のおしとやかな性格が瞳の色をさらに淡くみせる。肌はきめ細かく白かった。雪を連想させるがそんなものじゃない。まるでソフトクリームのような……
笠間はペンをそこで止めて紙を勢いよく丸めた。「だめだ、こんなんじゃ……」と自分自身に独り言をつぶやきそのままイスから崩れ落ちるようにうなだれ、床に背をつけてからすぐに体勢を変え、床に頬をつけるとフローリングの床からは湿ったよくわからない匂いがした。
そのまま目をつぶり、寝かけているとスマホの液晶が光り「ついたぞ!」とメールが表示された。友人の太田からだった。
俺には太田という友達がいる。小太りで冴えない見た目なんだが、なぜか異性からモテる不思議な男だ。友人関係がいつからかは覚えていないが小学校低学年からお互い知っているのをこの前の二人飲み会で発覚した。
「よっ!うわっ、相変わらず部屋汚ぇ」
太田は床に散乱した俺の服を蹴りながら座る場所をつくっていた。
「人の家きた第一声がそれかよ……」
「この部屋をみて他になにを言うんだよ。100人用意してそれぞれ一人づつこの部屋にいれて第一声を確認しても俺と同じような事を言うと思うぞ」
「100人は言い過ぎだな、きっと感性が鋭い俺みたいなタイプは、芸術性に富んだ部屋ねっていってくれるさ」
「これが芸術? そんな感性だからお前の小説が完成しないんだよ」
「何お前、感性と完成かけたの? 全然うまくないぞ?」
「そんなことより、なんだよ話しって」
「お前さ、高校の頃好きな子いた?」
「え? そりゃ、いたよ」
「へぇ、高校違うからその辺しらないわ。どんな子?」
「まず最初に付き合った子は……」
「ちょっとまてよ、付き合ったってなんだよ。それは認められないぞ。しかも最初はとかイケメンしか許されてないセリフいいやがって」
「なんでだよ、お前好きな子っていったろ?」
「好きな子っていったら普通憧れてたけど手が届かなかった人だろ。届いたやつ出してくんなよ」
「そんな事いったって……」太田は悲しそうな表情を俺に向けた。
「こいつ可哀想だなみたいな哀れんだ目でみてくるなよ。わかるぞ」
「バレた?」太田はおどけたように笑った。最高に腹が立つ。
「もういいよ、お前の好きな子話しは」
「なんだよ、せっかく話そうとしてたのに、じゃあお前の届かない話し聞かせろよ」
「宅配みたくいうなよ。届かないんじゃない。俺は住所すら書いてないんだ……」
「え、きも…… あの、もう一度言ってください。録音しますので」といじる。
「うるせぇ、お前だろ宅配みたく言ったのは、おれは乗っかっただけだ。美咲ちゃんの話ししたいのに話の腰おるなよ」
「わかった。美咲ちゃんね」
「そうなんだよ。めっちゃ好きでさ……俺……それこそきもいくらい」
「今も相当だけどな、はい、続けて」
「髪は短めで、肌はいい感じに焼けててさ、褐色肌まではいかないんだけど、スポーツマンってかんじでいつも明るかったんだよ」
「スポーツマンで明るい活発系か、お前に似合わないな。そんな子他の男子からも人気だろ?」
「だろ? そうなんだよ、すっごい人気だった。俺なんてまともに話すことすらできなかったよ」
「だろうな……」
「でも卒業式の日に俺は勇気を振り絞って連絡先を聞いたんだけど……」
「え? まじで? 頑張ったな」
「聞いたのはいいんだけど、引き攣った笑顔で、え? 私の? どうして?って言われちゃってさ」
「キツイな……、それで?」必死に口を押さえている太田をみてこのままこいつに話していいものか悩んだが、結局話すことにした。
「お前……、笑ってるのバレてるよ。まぁいいや、それね恥ずかしいのもあるけど怖くなって逃げたよ」
「はぁ? どう考えてもその状況で怖いのは美咲ちゃんの方だろ」
正論だ。こいつのこういうのデリカシーのなさが昔から嫌いだ。
「いや、わかってるけどさ…… 俺、美咲ちゃんの事なんども忘れようとしてて、小説のヒロインを書く時も美咲ちゃんとは真逆のタイプの子とか書こうとしたんだけど全然だめでさ、どうすればいいかな?」
「小説はしらねぇけど、もしかして美咲ちゃんって田沼美咲?」
「え?! なんで知ってんの?」
「やっぱそうか、俺が今付き合ってる彼女の友達だよ」
「はぁ?!」
「よし、お前が小説をかけるように俺が一肌脱ぐよ」
「お前何する気?」
「俺の彼女に言って美咲ちゃんに連絡とってもらう。そして、お前とくっつける」
「ばっ、お前余計なことすんなよ!携帯よこせ!」俺は立ち上がり怪しげなメールをうつ太田の携帯を取り上げようと座ってる太田におおいかぶさる。
「はい、送信完了」他人事だからか太田はあっさりとメールを送った。
「どうすんだよ、知らねぇからな」
「お前は結果を中途半端にしてるから忘れられないんだよ。こういうのはどっちかはっきりさせないと」
「お前、怖いやつだな、まぁ、学校も卒業してるしいいけど」
五分たった頃太田が謎のテンションで奇声をあげる。
「うひょーーー!」
「なんだよ! びっくりすんな。なんてきた?」太田の奇声よりもメールが気になりすぐに駆け寄った。
「彼女が美咲ちゃんにお前のこと聞いて、返事きたって」
「そ、そうか…… それで?」
俺の鼓動が異常な早さに達してすぐ太田の「ちょっとまって…… あ……」という言葉に心臓が停止しかけた。
「な、なんてきたんだよ?」
「笠間良平さん??誰だろう? ってきたらしい……」
「そ、そうだよな……」
美咲ちゃんの中で俺は消されていた。理由は俺の意気地がなかったからだ。
申し訳なさそうにしている太田をみて俺は目に涙を浮かべた。
「良平ごめん……」
「いや、むしろありがとう…… これで忘れられるよ」
この後メールがきて後日、美咲ちゃんと会うことになるのをこの時の俺はまだ知らない。
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