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僕は、洗面所で身体を拭いてパジャマに着替え、ドライヤーで髪を乾かし、リビングに向かう。
「おかえり、ご飯これから作るから待ってて」
いつものように、何事もなかったように、僕は笑みを浮かべながら楓に言う。
ソファーに座り頭を抱えていた楓は、僕の言葉にビクッと身体を弾かせた。酷く驚きながら顔を上げて僕を見ている。
予想外だったんだろう?
どんな罵声を浴びせられるかビクビクしていたんだろう?
人は罪の意識を感じていたなら、責められる事で罪の意識を少しでも軽くしようとするものだから。
でも僕は、簡単には軽くなんかさせない。
楓はソファーから立ち上り頭を深々と下げ、謝罪の言葉を口にする。
「悠…、悠 ごめんっ!」
それを一瞥し、僕は無言でキッチンに行き、冷蔵庫からペットボトルを取り出し、その場でごくごくと飲む。
リビングに戻り、頭を下げたままの楓と離れた所で立ち止まり、壁に寄りかかる。
そしてゆっくりと語りかける。
「ねぇ、楓…。その謝罪は何に対して?休日出勤だと嘘をついた事?それとも、あの女性と手を繋いでデートしていた事?あぁ、アノ人、2週間前のホテルの女性と同じ人なの?」
薄笑いをする僕を、楓は、解りやすい程に動揺し、目を見開き、息を飲んでいた。
「――っ!な…んで、それを…」
「あの日、僕は楓に電話したんだよ?そうしたらさぁ、女の人が教えてくれたよ?今ホテルだって。楓は今 シャワーしてるって」
「――――っ!」
楓は顔色を変え、震えていた。
僕はそんな事、お構いなしに続ける。
「ねぇ、ホテルでシャワーまでして何してたの?」
言われなくても解ってるけどね…。
僕は、声を荒げる事なく淡々と話を続ける。
「――顔色が悪いよ?楓」
「ごめん…なさい、悠…」
楓の弱々しい声。
楓はその場で跪く。
楓を徐々に追い詰めていく。
僕は本来 こういう人間なんだよ?
忘れていたでしょう?楓…。
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