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『今日は会社の人と飲みに行くから、帰りが遅くなります。先に寝てて下さい』 『わかった。気を付けて帰ってこいよ』 楓に義務的なメッセージを送り、直ぐに返信が来た。 楓との生活は一変した。 楓が僕に気を使って、仕事が終わると真っ直ぐ帰って来るようになった。 楓は早く帰れる時に晩ごはんも作るようになったし、楓からのメッセージが頻繁になった。 以前なら喜んでいたと思う。 いや、今も嬉しいんだ。本当は。 だけど、手放しで喜べない。 心の片隅に黒い塊が顔を出す。 またいつかは裏切られる。 それならば、楓がしたように僕もすればいいんだと――――… 楓に抱いて貰えないのだから、 僕は、僕の身体を満たしてくれる相手を探せばいいんだと―――… そんな考え方おかしいと、何を馬鹿な事をしようとしてるんだと、自分でも呆れる。 そこまでしなくても、さっさと楓なんか見切りを着ければ良いのにと。 自分の気持ちなのに、ままならなくてイライラする。 楓を見ると意地の悪い態度を取って、楓を傷付けたくなる。 傷付いた顔を見ると自分まで心が痛くなるのに。 本当に自分でも呆れる―――…。 本当は、会社の人と飲みに行くというのは僕の嘘だ。 今日、出会い系アプリで知り合った人とバーで会う。 待ち合わせ時間に合わせて残業をし、バーに入った。 ヤリモクばかりのメッセージの中で、プロフィールを見て興味を持った30歳の人。 何度かメッセージのやり取りをして気が合い、今夜 会う事になった。 カウンター席に座る。目印の青いハンカチをテーブルに置き、1人で先に飲んでいた。 暫くして入店して来た男の人と目が合った。 …あっ あの時の人――――――… その人はダークグレーのスーツ姿が凄く似合っていて人目を引く容姿。 僕は何故か目を背ける事ができなかった。 彼はカウンター席に居る僕の所に真っ直ぐに来た。 青いハンカチを見て、確信したようにニッコリと笑ってから、自身のスーツから青いハンカチを出した。 「 ユウくん?」 「はい、そうです。…キィさんですか?」 頷いてから彼は隣の左側の席に座った。 「この前カフェで会った…よね?」 彼が覚えていてくれたのが嬉しかったような、恥ずかしいようなそんな心境。 こんな偶然あるんだ……。 「この前は すみませんでした。余計な事を言ってしまって…」 良いんだよ。と、また優しく微笑んでくれた。
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