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僕は松山 悠
そして、恋人の名前は館川 楓
付き合ってから1年。
そして、同棲して半年が過ぎた。
恋人関係なのに未だにセックスはしていない。
ゲイの僕と違って彼は元々ノンケだし、男同士だからだろう。
彼が僕を見て性的な意味で興奮しないという事が、この1年で、いや、同棲して、同じベッドで寝ていて良くわかった。
同じベッドで一緒に寝て最初の頃、ドキドキしていたのは僕だけ。
自分からみっともなく、誘ってみたけどダメだった。
「ごめん。悠の事は大好きなんだ。だけど…「そう、わかった。僕を好きならそれでいいよ?無理しないで…」」
ベッドの中で顔を見ずに楓に抱き付き、みなまで言わさず遮るように言葉を被せた。
だって楓の口から、男の体では勃起しないなんて聞きたくないから。
「悠、顔を見せて。俺は本当に悠が好きなんだ。わかってくれる?」
楓の優しい声で、僕は楓の胸元から顔を上げる。
楓は真剣な瞳で、僕を本気で好きだと言ってくれた。キスをして、抱きしめられて、感じる楓の温もり、楓の匂い、それだけで満足できる。
僕たちは愛し、愛されている。
セックスだけが全てではない。
気持ちが繋がっているのだからそれで十分だと。
だけど―――…
同棲して3ヶ月目から楓の帰りが徐々に遅くなっていくにつれ、僕は不安になる。
久しぶりに2人揃っての休日に、家に居ても他の人とメッセージのやり取りで僕の事は蔑ろにされる事が多くなった。
出張だと言って暫く帰らない時があった。
帰って来た時、微かに甘い女性用の香水の匂いがした。
でも、それに気付かない振りをする。
心の片隅に黒い塊が少しずつ、少しずつ大きくなっていく。
その正体を僕は見ないように、気付かないように、触れないように蓋をした。
でもそんなの無駄だった。
虚しくも、
今日 僕は現実に向き合わざるを得なかった。
楓が浮気していた。
楓は僕以外を抱いていた―――…
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