905人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
4
「―――嘘つき…」
虚しくため息と共に溢れ落ちる言葉。
今日は早く帰って来ると言ったのに。
折角 彼の好きな料理を作ったのに。
ラップをかけて テーブルの上に置かれたままの料理を見て、また ため息が漏れるが、もしかして何かあったのかもと心配になり、楓に電話をした。
『――はい?』
電話に出たのは女性の声。
何故…どうして…ざわつく心
心臓の鼓動が早くなる
「あの…っ、それ 楓のスマホ…」
声が震えた。
その女性は僕が楓の友達だと思っているのだろう。
『あぁ、はい。そうです。楓くんのお友達?今ね、彼、シャワーを浴びているから、後でかけ直すように言いましょうか?』
電話の女性はおっとりとした口調の話し方。
胸がギュッと締め付けられる感覚になんとか耐えた。
「はぁ?シャワー?…いや、…いいです」
絞り出した声は、
情けないほど震えている。
『ああ、ここホテルだから。何してたかなんて恥ずかしいから、想像しないでね?ふふっ』
楓の浮気相手のその人は、嬉しそうに答えた。
「楓くんに急用じゃないのなら、切るわよ?じゃあね?」
「――――はい…」
と言って電話を切った。
その場で膝から先にガクンと床に落ちた。
頭をハンマーか何かで殴られたような衝撃を受けた。
やはり浮気してた!
いつから?
あっちが本命?
仮にも僕は恋人なのに―――っ!
それなのに
男の僕では抱けないから?
僕には魅力がないから?
今までずっと好きだから、側に居られたらそれで十分だと言い聞かせていたのに!
僕たちは男同士だからと諦めていたのに!
その女性の事が羨ましいと思った。
自分が浅ましいとも思った。
僕が女であれば良かったのにと、
ずっとそう思っていた。
女であれば楓と身も心も結ばれていたのにと。
本当は楓と心だけではなく、
自分がどれだけ
自分がどれほど
楓と体も繋がりたかったのかを再認識した。
頭の片隅で、いつも思っていた。
ノンケの楓は、いつかは女性の方に目が向いてしまうかもしれないと思っていた。
いつかは浮気をするだろうと思っていた。
今は悲しみと、悔しさと、虚しさだけしかない。
気が付いたら情けない程 涙が止まらないく、声を出して、泣いていた―――…
最初のコメントを投稿しよう!