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あれから2週間が過ぎた。
土曜だというのに楓は、朝から休日出勤だと言う。
申し訳なさそうに家を出て行く。
その姿に胸が痛くなる。
休日出勤なんて嘘かもしれないと、勘繰る自分がイヤだ。
僕は仕事が休みだったので、ひと通りの家事を終わらせた。
1人で家に居たくなくて、目的のない散歩をする事にした。
ふと目に入った一見 民家のような建物。外観が赤いレンガ作り、カフェの入り口にメニューを書いたボードがあった。
本日のオススメ、軽食がパスタセット、ハンバーグセット、サンドイッチセット、あとは良くあるケーキセット等が書いてあった。
お昼はまだ食べていなかったので、このこじんまりとしたカフェに入った。
カフェ店内では、クラシックが静かに流れている。
客は余り居らず、落ち着いた雰囲気の内装。
「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」
にこやかなで愛想の良い女性店員に席を案内されたのは、窓側の奥の席。背の高い観葉植物が隣の席と仕切りのように至る所に置いてある。
椅子に座る前にパスタセットをお願いした。
食べ終わりコーヒーを飲んでゆっくりとしていた。
さっき入って来た隣の席のカップルが、ずっと無言でコーヒーを飲んでいる。
別に聞き耳を立て聞いていた訳ではないが、ポツリと突然聞こえてきた。
「結局、喜一は私の事も好きにはなってくれなかったのね…」
女性は声を震わせながら呟いた。
その言葉に胸が締め付けられた。
人の事なのに何故か心が傷んだ。
これは別れ話かもしれないと直感した。
近い将来の楓と僕の姿に見えた。
思わず斜め向かいの男性に視線を向けてしまった。30代になるかならないかの男性で、かなりのイケメン。
その男性は無言で、真っ直ぐに女性を見ていた。
それよりも、僕はこのままここに居ても良いのだろうか。
非常に気不味い――――…
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