6

1/1

988人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ

6

あれから2週間が過ぎた。 土曜だというのに楓は、朝から休日出勤だと言う。 申し訳なさそうに家を出て行く。 その姿に胸が痛くなる。 休日出勤なんて嘘かもしれないと、勘繰る自分がイヤだ。 僕は仕事が休みだったので、ひと通りの家事を終わらせた。 1人で家に居たくなくて、目的のない散歩をする事にした。 ふと目に入った一見 民家のような建物。外観が赤いレンガ作り、カフェの入り口にメニューを書いたボードがあった。 本日のオススメ、軽食がパスタセット、ハンバーグセット、サンドイッチセット、あとは良くあるケーキセット等が書いてあった。 お昼はまだ食べていなかったので、このこじんまりとしたカフェに入った。 カフェ店内では、クラシックが静かに流れている。 客は余り居らず、落ち着いた雰囲気の内装。 「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」 にこやかなで愛想の良い女性店員に席を案内されたのは、窓側の奥の席。背の高い観葉植物が隣の席と仕切りのように至る所に置いてある。 椅子に座る前にパスタセットをお願いした。 食べ終わりコーヒーを飲んでゆっくりとしていた。 さっき入って来た隣の席のカップルが、ずっと無言でコーヒーを飲んでいる。 別に聞き耳を立て聞いていた訳ではないが、ポツリと突然聞こえてきた。 「結局、喜一は私の事も好きにはなってくれなかったのね…」 女性は声を震わせながら呟いた。 その言葉に胸が締め付けられた。 人の事なのに何故か心が傷んだ。 これは別れ話かもしれないと直感した。 近い将来の楓と僕の姿に見えた。 思わず斜め向かいの男性に視線を向けてしまった。30代になるかならないかの男性で、かなりのイケメン。 その男性は無言で、真っ直ぐに女性を見ていた。 それよりも、僕はこのままここに居ても良いのだろうか。 非常に気不味い――――…
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

988人が本棚に入れています
本棚に追加