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改めてチラリと観葉植物の隙間から男性に視線を向けると、少しダークブラウンの髪で少し前髪が長く、くっきりとした二重で端正な顔立ち。
かなりのイケメンで、服装だってセンスが良い。楓みたいにモテるだろうな…。そんな風にボンヤリと思っていた。
僕は何故かその男性から目が離せなかった。
男性は神妙な顔で目の前の女性を見ていたから。
「喜一は私を全然愛してくれない。それが分かり過ぎて辛いの。もう虚しくなるのはイヤなの。
ねぇ…、あなたは誰も愛せないのかしら?……別れましょう?」
男性は「わかった」とひと言のみ。見ちゃいけないと思いつつチラリとまた見てしまった。
男性の返事に女性は笑みを浮かべているけれど、それは諦めの笑みだとわかった。
「やっぱりそうなのね…。
喜一は物分りが良すぎよ?結局 この関係は私が縋っていただけなのよね…。さようなら、喜一」
そう呟いて、項垂れながら席を立ち店を出て行った。
何故かその女性が未来の自分に見えた。
思わず口を出してしまった。
「あの…、いいんですか?追いかけなくても……」
「―――えっ?」
不意に隣の席の僕から声をかけられたから驚いたのだろう。
「すみません。聞こえたもので。余計なお世話でしたよね?」
「…いや、いいんだ。ありがとう」
顔を上げた隣の男性は、僕を見て一瞬目を見開き、どこか懐かしむように僕を見て微笑んだ。
「追いかけてヘタに期待させても悪いだろう?
そんな優しさ いらない筈だから…ね?」
「あっ、すみません。僕、余計な事を言って…」
自分の失言に恥ずかしくなった。
「心配してくれて ありがとう」
「いえ、そんな…」
凝縮している僕にその人は微笑みながら優しく声をかけて、席を立って店を出て行った。
僕は軽く会釈をして、その人の背中を見送った。
大人の色気と大人の余裕がある素敵な人だったなぁ…。
あの男性の事を思い出して、顔が綻んだのが誰にも見られなくて良かった。
ふと窓を覗くと、いつの間にか外は曇り空になっていた。
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