8

1/1
前へ
/143ページ
次へ

8

時間もあるし、少し遠いショッピングセンターまでバスで移動した。 そこで必要な物を買って、楓の為においしそうなお惣菜も買って、店内をブラブラ見て回った事に後悔した。 それは突然視界に入ったから。 「―――っ!うそ…なんで…」 自分の口から弱々しい声が出た。 アクセサリーショップの入り口で、楽しそうに女性と手を繋ぎ、笑顔の楓がそこに居た。 女性が指をさすと楓は優しく頷いて中に入って行った。 休日出勤だと言っていたのに? 楓には姉妹はいない筈だ。 あの時の電話の人? 体が小刻みに震える。 変な汗まで出て来た。 ドクンドクンと心臓が跳ねると同時に、胸の中でまたどす黒い何かが大きくなる。 直接乗り込むのは怖い―――。 店内に居る楓に見つからないように柱に隠れて、深呼吸をし、息を整えてからスマホを取り出し、楓に電話をかけた。 「今どこにいる?」「まだ仕事?」それを聞いたら、楓はどんな言い訳をするのだろう。 今、会社なんだ。と言うつもりだろうか。 僕は もう一度、深呼吸をしながら楓を目で追った。 僕の位置から見える所に2人は並んで商品を見ている。端から見たら仲の良いカップルだ。 楓はスマホに気付いたようだ。口の動きを見ると、女性にごめんとでも言っているのか、少し離れてから、楓は胸ポケットからスマホを取り出した。 楓は表示を見て眉を寄せ、電話に出ずに、またポケットにしまった。 『お掛けになった電話は、電源を切っているか、または、電波が届かない所に…』 器械音の案内が聴こえた。 着信音かバイブにしていたから、ポケットからスマホを取り出した筈なのに、楓は今 電源を切った。 女性の所に何事もなかったようにまた戻っていく。 何かの間違いではなく 楓が出した僕へのそれが応えだった。 僕は楓を凝視しながら耳からスマホを離した。 手が、体がまた震える。 視界がぼやける。 唇をぐっとキツく噛み締めた。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1017人が本棚に入れています
本棚に追加