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時間もあるし、少し遠いショッピングセンターまでバスで移動した。
そこで必要な物を買って、楓の為においしそうなお惣菜も買って、店内をブラブラ見て回った事に後悔した。
それは突然視界に入ったから。
「―――っ!うそ…なんで…」
自分の口から弱々しい声が出た。
アクセサリーショップの入り口で、楽しそうに女性と手を繋ぎ、笑顔の楓がそこに居た。
女性が指をさすと楓は優しく頷いて中に入って行った。
休日出勤だと言っていたのに?
楓には姉妹はいない筈だ。
あの時の電話の人?
体が小刻みに震える。
変な汗まで出て来た。
ドクンドクンと心臓が跳ねると同時に、胸の中でまたどす黒い何かが大きくなる。
直接乗り込むのは怖い―――。
店内に居る楓に見つからないように柱に隠れて、深呼吸をし、息を整えてからスマホを取り出し、楓に電話をかけた。
「今どこにいる?」「まだ仕事?」それを聞いたら、楓はどんな言い訳をするのだろう。
今、会社なんだ。と言うつもりだろうか。
僕は もう一度、深呼吸をしながら楓を目で追った。
僕の位置から見える所に2人は並んで商品を見ている。端から見たら仲の良いカップルだ。
楓はスマホに気付いたようだ。口の動きを見ると、女性にごめんとでも言っているのか、少し離れてから、楓は胸ポケットからスマホを取り出した。
楓は表示を見て眉を寄せ、電話に出ずに、またポケットにしまった。
『お掛けになった電話は、電源を切っているか、または、電波が届かない所に…』
器械音の案内が聴こえた。
着信音かバイブにしていたから、ポケットからスマホを取り出した筈なのに、楓は今 電源を切った。
女性の所に何事もなかったようにまた戻っていく。
何かの間違いではなく
楓が出した僕へのそれが応えだった。
僕は楓を凝視しながら耳からスマホを離した。
手が、体がまた震える。
視界がぼやける。
唇をぐっとキツく噛み締めた。
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