湧出と無惨な霧散

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湧出と無惨な霧散

 警察庁祓魔課の救出新装版 可愛い子には旅をさせろ編  さあ!舞台の只中もかくやといった風に、鬼と化した男、羅吽(らごう)は声を上げた。 「地に潜む土蜘蛛よ!まつろわぬ威霊よ!逆襲の時は来た!我が名は羅吽!元の名を蘇我赤兄(そがのあかえ)!列島たる日本に震撼を!地に蔓延る糸を切り崩す時が来たのだ!」 無数の霊気と、その中に一際巨大な霊圧は、いよいよ膨れ上がり、地上目指して突き進んできた。 「行け!憎き皇家を滅ぼすのだ!」  羅吽の笑い声が響き渡っていた。  その頃、稲荷山トキとニューヨークを1泊2日で旅行してきた勘解由小路莉里(かでのこうじリリ)は、ペットのニホンカワウソをモフモフしながら、テレビをボンヤリ見つめていた。 「ぷいきゃーも、そろそろ中だるみしてんじゃないか?って思うのよさ。どんな脳味噌なら、あれがキャベツの見えるのよさ?今のぷいきゃー見るくらいなら、アメリカでキャットドッグ見た方がまだ面白いのよさ。蚤取り首輪取り合う話とか」  左様でございますか。そう言ったのは、勘解由小路家管財人にして家政婦の、稲荷山トキという老女だった。 「海外に外注したのが、不味かったようでございますね」  提供元の稲荷山テレビの社長でもあったトキが言った。  要するに、制作スタッフはもうすぐ息の根を断たれる。 「テコ入れが必要なのよさ。エボニーのキャラが、定まってないのもどうかと思うのよさ」  あへーって顔したカワウソをモフりながら、莉里は不在のぷいきゃーエボニーについて語っていた。 「ぷいきゃー会議はまたの機会にいたしましょう。それよりも、今は喫緊の問題がございます」  そいつの顔を思い出すだけで、トキの顔は凶相と化してしまっていた。  あの蛇メス。今すぐ殺したらあ。  トキの殺意は、恐るべき呪となって、壁に括られた存在を締め上げていた。 「どうでもいいけど、壁に括られてるのは何なのよさ?」 「さて、何やら皇居の近辺を彷徨いておりましたので、まあ、やっといた次第にて」  羅吽がそそのかした土蜘蛛は、とっくに拿捕されていたのだった。 「確か、土蜘蛛でございます。名は、何と申しましたでしょうか」  この土蜘蛛、大化時代に上野(こうずけ)の国辺りにいた豪族のなれの果てで、大斬五郎悲惨丸(だいざんごろうひさんまる)といった。 「ああ、何やら雑兵もいたようでしたが、(わたくし)が降り立ちますと、たちどころに逃げて失せたご様子」  既に、次の霊災はトキによって秘密裏に処理されていた。 「しかして、最早賽は投げられたのでございます莉里様。これは、どこまでも四方を焦する女の戦いでございますれば」  蛇メス殺すううーううううー!といった具合だった。  全く、これっぽっちも懲りていない邪悪な妖狐(ババア)の威を受けて、莉里は、己はどうしようと考えていた。  まあ、ニューヨーク帰りだし、やるだろうな。と莉里は考えた。  莉里は、パパのラブに溺れるラブ狐ちゃんなのよさ。  幼児の意も既に決していた。  大斬の体は、たちどころに塵と化して消え失せていた。
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